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生命のつらなる場所 知床半島
知床の基礎知識・入門編 知床半島の自然史
文/宇仁義和・編集部 写真/宇仁義和

写真(*1)は斜里町観光協会、
(*2)は斜里町立知床博物館提供

知床連山と知床五湖(撮影:後藤昌美)
空からみた知床半島

  ▲空からみた知床半島



※1[世界自然遺産について]

・世界遺産活動(日本ユネスコ協会連盟)
http://www.unesco.jp/contents/isan/
・IUCN日本委員会
http://www.iucn.jp/
・日本の世界自然遺産(林野庁)
http://www.rinya.maff.go.jp/sekaiisan/
・北海道自然環境課
http://www.pref.hokkaido.jp/kseikatu/
ks-kskky/sizenhome/sizentop.htm



知床半島のくわしい地図 知床半島マップ


 日本に残された最後の「秘境」知床。
 そこは旅人や自然愛好家の憧れの地であり、自然の聖地といえる場所です。知床はアイヌ語で「シリ・エトク」(大地の行きづまり)を意味し、江戸時代には東と西の蝦夷地の境界とされるなど、名実ともに北海道最果ての地でした。このオホーツク海に突き出た長さ70km、幅20〜40kmの細長い半島は、遠隔地で地形が険しく開発が進まなかったことから、国内で最も原生的な自然が保全された場所であり、海・陸ともに野生動物本来の生態が見られます。
 海と陸が一体となった生態系、流氷と暖流、針広混交林が形成する多様性豊かな生物相は世界的に類例がなく、2005年7月に世界自然遺産(※1)に登録されました。

 知れば知るほど奥深い知床ですが、本特集のはじめに、その入門編をご紹介しましょう。



知床の地質・地形

■火山活動から生まれた半島

 知床半島は、火山活動によって生まれた半島で、中央を知床連山がつらぬいている。そのうち活火山は主峰・羅臼岳(らうすだけ・1661m)と、いまも噴気を上げる硫黄山(いおうざん・1563m)の二つ。火山活動は約900万年前に始まる海底火山と、現在まで続いている陸上の火山活動に分けられる。
 硫黄山は純度の高い融解硫黄を吹き出すことで古くから知られ、江戸時代末期には採掘が試みられた。明治になると開拓使のお雇い外国人ライマン(※2)が調査を行い、本格的な操業は明治時代と戦前の二度行なわれている。昭和11(1936)年の噴火では、噴出した硫黄がカムイワッカ川に流れ、河口までを黄金色に埋めつくしたという。現在は活火山といえども休止状態で登山もできる。硫黄を噴出した新噴火口では、めずらしい硫黄の針状結晶が見られる。
 知床岬周辺は、古い海底火山の溶岩が崖をつくり、長い年月をかけて浸食されたため、複雑な形をした奇岩が多い。斜里町ウトロ側に目立つ垂直な断崖は、現在の火山の溶岩でできたもので、フレペの滝周辺の幌別(ほろべつ)台地は羅臼岳、知床五湖がある岩尾別(いわおべつ)台地は硫黄山の溶岩が流れた跡である。


硫黄山古図

▲硫黄山古図。噴煙の上がる硫黄山「入北記」より(北海道大学北方資料室蔵)


硫黄山の新噴火口で見られる硫黄の針状結晶

▲硫黄山の新噴火口で見られる硫黄の針状結晶


※2[ライマンについて]

・北海道デジタル図鑑「100の物語」最先端の知識と技術を伝えたお雇い外国人
http://www.hokkaido-jin.jp/
zukan/story/02/14.html




知床五湖

  ▲初夏の知床五湖(*1)



知床西岸の断崖

   ▲知床西岸の断崖(*1)


滝の下番屋

▲滝の下番屋(*2)



※3[針広混交林について]

・北海道デジタル図鑑「100の物語」わたしたちの命を育む森林
http://www.hokkaido-jin.jp/
zukan/story/01/10.html


■独特の自然景観

 海岸部は息をのむような断崖が続き、山並みは険しく、がけ崩れのおきた場所も多い。川は河口まで渓流が続き、滝となって海に落ちる。川の中流と下流がなく、上流からいきなり海に注いでいるので、農業に適した平地はほとんどないといってよい。
 この地形を針広混交林(※3)、つまりエゾマツやトドマツなどの針葉樹とミズナラやイタヤカエデなどの広葉樹が入り混ざった森林がおおい、秋には美しい紅葉となる。そのところどころに知床五湖や羅臼湖といった湖や沼が変化をつける。
 また自然の景観ではないが、断崖を背に海岸にへばりつく漁業番屋は最も知床らしい風景かもしれない。圧倒的な自然の迫力を前に、人はなんと小さなことか――観光船から観る風景は私たちをそういう気持ちにさせる。



■充実した保護制度

 このような景観は、日本で一番充実した自然保護の制度によっても守られている。半島の中央部より先は、知床国立公園(※4)や知床森林生態系保護地域などに指定され、環境省と林野庁の手によって幾重にも保護の網が掛けられている。
 一方、海については沿岸1km以内が国立公園の普通地域となっているだけで心許ない。これは国内に海域保護の仕組みがほとんどないことが原因で、世界自然遺産の登録を機に、今後は議論を呼ぶかも知れない。


オオワシ

▲オオワシ


知床半島の天然記念物
鳥類 6種 オジロワシ・オオワシ・エゾシマフクロウ・クマゲラ・ヒシクイ・マガン
昆虫 1種 カラフトルリシジミ


※4[知床国立公園について]

環境省自然保護事務所
http://www.sizenken.biodic.go.jp/park/np/


「知床世界自然遺産候補地管理計画」(環境省・林野庁・文化庁・北海道)より

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