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特集 北国ラーメンものがたり 北海道四大ラーメンを訪ねる 取材・文/編集部
その3 戦後屋台で復活するラーメン・続き
昭和20年代中ごろ、創成川沿いに並んだ露店。この付近に勘七氏のラーメン屋台もあったのだろう。
▲昭和20年代中ごろ、創成川沿いに並んだ露店。この付近に勘七氏のラーメン屋台もあったのだろう。(写真提供:札幌市教育委員会文化資料室)

創成川沿いに、ラーメン屋台の灯がともる
 終戦後、札幌には旧満州・樺太などから多くの引揚げ者がやってきた。多くの人は財産をすっかり手放し、ゼロからのスタートである。そんななか、函館生まれで天津に渡っていた松田勘七氏が、昭和21(1946)年11月、創成川沿いで小さな屋台をはじめた。あたりは雑多な露店がびっしり並び、買い物に来る人であふれ返っていたという。

 最初は、やきとりや酒を出していたが、自分が下戸なので酒飲みの相手をするのが辛くなり、別の商売をしようと考えた。そこで思いついたのが、戦前に中国料理店などで食べたラーメンだった。中華麺は以前から函館で食べていたし、天津でも同じような麺料理を口にしていた。温かい汁物は、寒いなか人々に喜ばれるにちがいない。
 さっそく知人の製粉所をたずね、製粉の機械にくっついていたわずかな小麦粉を集めて分けてもらった。スープ用に豚骨を買い込み、鍋やどんぶり、七輪などの道具もそろえた。こうして料理は全くの素人ながら、なんとかラーメン屋台の形をととのえた。

 さて味つけはどうしよう。
 勘七氏は天津で会った日本人が、何にでもしょうゆをかけていたことを思い出し、それまで多かった塩味ではなく「しょうゆ味のラーメン」を作った。この味が、豚骨をゼラチンが溶け出すまで煮出した熱々スープと相まって、屋台の前には行列ができた。
 このときの屋台が、いまも時計台の向かいにあるラーメン店「龍鳳」の原点であり、戦後の札幌ラーメンの原点にもなっている。現在の「龍鳳」は、勘七氏亡きあと松田家の次男である滋さんが守っている。


「龍鳳」住所:札幌市中央区北1西3 東京海上日動火災ビル1階 となりの入口は、松田滋さんのお兄さんが経営する喫茶店「杜」。初代・勘七氏も大のコーヒー好きだった。
「龍鳳」   「龍鳳」伝統のしょうゆラーメン。麺はやや細めの自家製麺を使用
  ▲「龍鳳」伝統のしょうゆラーメン。麺はやや細めの自家製麺を使用。


 もう一軒、昭和22(1947)年の春、狸小路2丁目あたりに「だるま軒」というラーメン屋台が現われた。こちらは富山から東京、横浜を経て札幌にやって来た料理人・西山仙治氏の店で、製麺の技術に定評があった。
 「だるま軒」は自分の屋台でラーメンを出すほか、いくつかの店に麺を卸し、札幌のラーメン屋台の発展を支えている。その後二条市場内に店舗を構え、製麺部門は専門の工場を別に開き、これがのちに北海道有数の製麺企業「西山製麺」の礎となる。


 昭和30(1955)年から「だるま軒」に勤め、夫の久蔵さんとともに昭和43(1968)年に独立、ラーメン店「王香(オウシャン)」を営む大森より子さんが当時のことを教えてくれた。
 「昭和30年代は1日に1000人以上のお客さんが来ました。住み込みの手伝いの人が、多いときで18人もいました。二交代制で、みんなで手際よく仕事を分担していたので、お客さんの行列ができても慌てたことは一度もありません。
 店の入口は今と同じく1間でしたが、店内はもっとせまかったんです。だんだん手狭になって、少しずつ大家さんから借りる面積を増やしていったので、あんなに細長くなったんですよ」
 市場や狸小路に買い物に来る家族づれ、昼休みや残業あとのサラリーマン、宴会帰りのお父さん…とにかく大勢の人が「だるま軒」にやって来た。1日に使う長ネギは両手で抱えても足りないほどで、豚骨やチャーシューの肉を仕入れていた肉屋には、「だるま軒からの支払いだけで社員全員の給料が出る」と言われた。
昭和25年ころの「だるま軒」屋台。西山仙治氏(左)と商売を手伝った甥の孝之氏。
▲昭和25年ころの「だるま軒」屋台。西山仙治氏(左)と商売を手伝った甥の孝之氏。孝之氏はこのあと西山製麺の初代社長となる。(写真提供:西山製麺)
昭和29年、大勢の客でにぎわう「だるま軒」の店内。
▲昭和29年、大勢の客でにぎわう「だるま軒」の店内。コンロの燃料が炭火だったので、調理台の横に煙突が見える。(写真提供:王香)

「王香」 大森より子さん   「王香」のしょうゆラーメン。太めでふっくらコシのある麺は創業時からの製法を守り、今もファンが絶えない。  
▲「王香」住所:札幌市中央区南18西11 石山通りに面した1軒家の1階にある。店内はカウンターのみで、より子さんの細やかな心遣いが感じられる。   ▲大森より子さん。「どんなに忙しいときも、いつも正直に、ていねいな仕事をしてきました」。   ▲「王香」のしょうゆラーメン。太めでふっくらコシのある麺は創業時からの製法を守り、今もファンが絶えない。
「だるま軒」   「だるま軒」のしょうゆラーメン。今も店の地下で作る自家製麺が自慢。トレードマークのだるまが丼にもついている。
▲「だるま軒」住所:札幌市中央区南3東1 新二条市場内 現在も新二条市場の西側にある趣のある店構え。入口は小さいが奥にものすごく長い。   ▲「だるま軒」のしょうゆラーメン。今も店の地下で作る自家製麺が自慢。トレードマークのだるまが丼にもついている。

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