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動物園人インタビュー 坂東 元さん(旭山動物園 飼育係長・副園長)

魅惑の動物園イメージ画像

取材・文/編集部写真/船戸俊一・編集部

 日本最北の動物園・旭山動物園には、「生き生きした楽しさ」と「心地よさ」があふれている。動物たちのエネルギーが伝わってくる。「旭山らしさ」といってもいい。
 これはどうして生まれたのだろう。動物園の飼育展示係長で、副園長で、動物のお医者さんでもある、日々大忙しの坂東さんにお話を聞いた。
 ちなみに旭山動物園には「飼育係」がいない。みんな「飼育展示係」という役で、飼育担当している動物を、最高の状態でお客さんに展示すること、動物の魅力を伝えることが仕事。

旭山動物園のペンギン
旭山動物園のペンギン
旭山動物園にはキングペンギン、ジェンツーペンギン、フンボルトペンギン、イワトビペンギンの4種類のペンギンがいる。ぺんぎん館の水中トンネルでは、空を飛ぶように泳ぐ姿が見られる。
坂東 元(ばんどう・げん)さんプロフィール

坂東 元(ばんどう・げん)さん1961年旭川市生まれ。子どものころから虫や鳥が大好きで、小学生の時にセキセイインコを部屋で何羽も放し飼いにして繁殖させ、生まれたヒナを知り合いと交換したりしていた。
あるとき、普段は近寄ってこないインコが2羽、坂東少年にまとわりついてきた。「あれ?」と思ったが、どうしてかわからない。翌日、そのインコは突然死んでしまった。当時まわりに小鳥を診てくれる獣医師がいなかったこともあり、坂東さんは何もできないことが悔しかった。「生き物を飼うには可愛がるだけではダメだ。ちゃんとした知識がないとダメだ」と強く感じた。
その後、酪農学園大学に進学し、獣医師の資格を得て1986年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働きはじめ、現在に至る。モットーは「直感力・開き直り・非常識」。

現在あるおもな展示施設――ライオンやトラなどが間近に見られる「もうじゅう館」、水中トンネルのある「ぺんぎん館」、「ほっきょくぐま館」や「あざらし館」、高い樹上での生活が再現された「おらんうーたん館」など、ユニークな展示はほとんど彼が考案したもの。最も注目されている動物園の、最も注目される「動物園人」のひとり。

「めずらしい動物」がいない動物園

旭山動物園
旭山動物園のオランウータン
オランウータンは高さ17メートルのロープをゆうゆうと渡る。2005年1月にオープンした「おらんうーたん館」では、冬も元気な彼らに会える。現在は雄のジャックと雌のリアン、赤ちゃんのモモの三人暮らし。

 「うちの動物園には、めずらしい動物がほとんどいないんですよ」
 たしかにそうだ。ペンギンもホッキョクグマも、いまの日本の動物園ではめずらしくないし、アザラシなどはどこの動物園や水族館にもいる、どちらかというと地味なわき役である。
 一方で、大きな動物園の今までの人気者は、めずらしいパンダ、めずらしいコアラといった、そこにしかいない、「めずらしい○○○」が多かった。
 しかし、はじめに「めずらしい」で話題を集めたものは、時間がたつと飽きられてしまう。そして、また次のめずらしいものへ人の気持ちはどんどん移っていく。そうするとお客さんが減り、動物園はまた貴重な動物を世界中から集め、消費し続ける。――そのくり返し。

 坂東さんをはじめ旭山動物園のスタッフは、「めずらしさ」ではなく、その動物が持っている「すばらしさ」「すごさ」をお客さんに伝えることをずっと考えてきた。
 動物園でせっかく飼育している動物たちを、お客さんが「もう飽きた」とか「面白くない」とか、そんな風に思うことは、坂東さんにはガマンならないほど悔しいことなのだ。

 たとえば、スタッフがそれぞれ担当している動物について、とにかく勉強して、毎日観察して、見に来てくれたお客さんに詳しくガイドする。手書きの解説看板をたくさん作って、あちこちに立てる。動物ごとにエサやりの時間を決めて、お客さんの目の前で、説明をしながらエサを与える(これは「もぐもぐタイム」と命名され、もう何年も続いている)。

 こうした小さな日々の努力を、みんなで地道に続けた。これらはお金がなくてもできる。もともと旭山動物園は市営なので、あまり潤沢な資金がない。それどころか、10年ほど前は入園者がどんどん減って、閉園の危機にさらされていた時期もある。少し前から、動物園以外のさまざまな娯楽施設ができたこと、子どもの数が減ってきたこと、人気者だったゴリラが亡くなったことなども原因だった。
 でも、坂東さんたちはこの積み重ねを続けていった。

 

旭山動物園のアザラシ
水中で眠ることもできるアザラシ。この大きな身体に、不思議がいっぱいつまっている。

 坂東さんはいまも楽しそうに教えてくれる。

 「野生動物は、ぼくらの想像が全く及ばない能力を持っていて、それぞれのやり方で生きているんです」
 たとえばアザラシは、哺乳類だけれど水中で眠ることができる。これにはちゃんと理由があって、アザラシは血液中の酸素を有効に使うために、寝ている間は心臓をゆっくり動かし、血液を大脳のほうだけに集中して巡るようにしたり、身体に酸素をたくさん貯めておけるよう、血液量がものすごく多かったりするからである。
 「動物たちは、人間とは全く違うスケールで生きています。めずらしいか、めずらしくないか、なんて、人間が勝手に決めた、勝手な価値観でしょう。そんなことじゃなくて、ぼくが何も知らないでこの動物園に入ったとき、びっくりしたこと、驚いたことを、お客さんたちに伝えたいと思いました」

 その後、1997年ころから園長さんらの努力により、古くなってきた動物園を再整備する計画がはじまった。予算も少しついた。このとき坂東さんたちは、新しい動物を購入するのではなく、これまでいた動物をもっと魅力的に見せられる展示、旭山だけの「見せ方」をする工夫に取り組んだ。

旭山動物園イメージ画像

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