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駅弁のはじまり――北海道駅弁のルーツ、「銭函名物・酒まんじゅう」は今も健在

1998年、約半世紀ぶりに復活した銭函名物「酒まんじう」。ほんのり香る甘酒のにおいと上品な甘さが身上。函館本線・銭函駅売店のほか、芦別市内の小売店で販売している。


 この酒まんじゅう、じつは数年前に復活し、現在も銭函駅で売られている。作っているのは銭函から約100キロも離れた芦別(あしべつ)市の菓子店。なぜ芦別で銭函名物が作られているかというと、ここにはちょっとした物語がある。

 かつて、銭函駅の酒まんじゅうが大好きだった少年がいた。
 彼は銭函で生まれ育ち、鉄道マンだった父と一緒に、近所の菓子屋のおばさんから作り方を教えてもらい、見よう見まねで酒まんじゅうを作ったこともあった。やがて戦争が終わり、酒まんじゅうは銭函から姿を消した。
 大人になった彼は、記憶をたよりにそのときのレシピを書き留めていて、いつかまた食べたいと思っていた。
 そして1997年、60歳をすぎた彼は、昔を知る同級生とひょんなことから「あの酒まんじゅう、もう一度銭函に復活できないだろうか」と思いつく。同級生は小樽や札幌の知人に話をもちかけ、どこかの菓子屋で製造してもらえないかと探しまわった。ところが、記憶だけが頼りの半世紀前のまんじゅうに、賛同してくれる人はなかなか見つからなかった。
 しかし、話は同級生同士を通じてどんどん広がり、芦別市に住む別の同級生の知人を通して、「近くに腕のいい職人さんがいるから話してみよう」と言うことになった。

長年にわたり、菓子の卸売り業を営む小川秀雄さん。芦別生まれの芦別育ちで、「銭函にはあまり行ったことがないんです」とのこと。
工場でていねいに作業を続ける小川さん。大福、ドーナツ、カステラ、どら焼きなど、なつかしいお菓子が次々とでき上がる。

 そうして、芦別で40年ちかく菓子作りを続けていた「小川菓子舗」の小川秀雄さんのもとに、酒まんじゅうのレシピが届いたのだ。
 「材料もないし、作り方もハッキリわからないし、最初はずいぶん失敗しました」と当時をなつかしむ小川さん。
 酒まんじゅう復活に沸き立つ仲間たちとともに、小川さんは何度も試作を重ねた。中に入れる酒もいろいろ探しまわり、大阪のどぶろくを取り寄せたり、道内の酒で試したりした。そして約半年後、なんとか形になった試作品の酒まんじゅうを、宅急便で銭函に住む、かの酒まんじゅう好きの男性に送った。そのときの感想が手紙にこう記されている。

 幻になっていた「酒まんじゅう」が十個ほど入っていた。早速ふかして食べてみた。只々感嘆。「よくぞ生まれ変わってくれたものよ」と涙が出てきた。(中略)私はすぐ「合格です」と連絡し…

 合格の知らせを受けた小川さんは、1998年の末から本格的に製造をはじめた。作り方はごくシンプルで、材料も昔ながらのもの(小豆、小麦粉、砂糖、日本酒、酒種)だけを使う。酒を加えて生地を練り、あんを包み、蒸篭で蒸し上げる。最後に焼き印を押してできあがり。
 「和菓子は、簡単そうに見える『蒸しもの』と『焼きもの』がいちばん難しいんですよ」

 小さな銭函駅の改札の向かい、売子さんが一人で切り盛りする売店に、その「酒まんぢう」は誇らしげに並んでいる。

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