デッキから体を乗り出し、お金を差し出しながら大声で弁当屋さんを呼ぶのは、SL時代の長旅の経験をもつ年配の人。しかし、こういうお客にはめざす弁当はなかなか手に入らない。なにしろ、他線への乗換駅であっても特急の停車時間はせいぜい1、2分だから早い者勝ちだ。
それに、まごまごしているとドアが閉まる。そうはさせじと、弁当屋さんは首から下げている箱でドアをガードする。ホームは買う側も、売る側も、一秒たりとも無駄にはできない戦場なのである。
いまは、「弁当!弁当!」と声を張り上げてホームを行き来する弁当屋さんの姿は見られず、駅弁はホームの売店の商品になった。全国各地のデパートで開かれる全国駅弁大会では北海道の駅弁が抜群の人気だが、かつて旅情を慰めてくれた名物駅弁も、ここでは郷愁を誘う商品になったようだ。
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