かつて鉄の町として栄えた市の中心部へは、東室蘭駅から伸びる室蘭本線の支線を、各駅停車でトコトコ進む。終点の室蘭のひとつ手前に、趣きのある名前の駅がある。その駅は「母恋(ぼこい)」という。
ホームに降りると懐かしい木の階段があり、切符売りの窓口におばあさんが縫い物をしながら座っている。昭和の古きよき時代の、時間がゆったりと流れているような駅。ここで駅弁「母恋めし」を見つけた。
まずふたを開けるとあらわれる、大きなホッキ貝に驚く。貝殻のなかには、ホッキの炊き込みごはんのおにぎりがすっぽりおさまっていて、おかずはスモークチーズ、くん製卵、漬物がついている。酒の肴にぴったりな取り合わせだ。さっそく母恋めしを食べてみた。なんともいえないほの甘さが口の中に広がり、ホッキがシコッとした歯ざわりを残しつつ、とてもやわらかい。
この駅弁、室蘭港にあるエンルムマリーナ内の喫茶店「ブロートン」で、関根勝治さんと妻の久子さんの2人が毎日20個ほど作っている。もともとは、久子さんが昭和62年「第2回むろらん郷土料理コンクール」の弁当部門で、最優秀賞をとった作品から生まれたもの。
最初は駅弁にするつもりはなく、母恋めしという名前は、「母恋」という地名がアイヌ語で「ホッキがたくさんある所」という意味だったことからつけた。
実は、ご主人も久子さんも本業は工芸作家。ご主人は貝工芸作家で、ホッキなどの貝殻を加工し、ブローチなどのアクセサリーや置物などを作っている。すると貝殻を使ったあとの中身ばかりがあまってしまう。母恋めしは、久子さんが中身をなんとかしようと考えたことから誕生した。
久子さんは銀粘土でアクセサリーを作っている。現在の喫茶店は久子さんのアトリエだったが、喫茶店とよく間違われたので、それならと5年前からオープンし、母恋めしを出したところ大評判になった。
そして2年前、もっと多くの人に食べてもらいたいと駅で売ることを思いつき、めでたく希望がかなえられた。夏の観光シーズンには1日100個以上の注文があるほどの人気ぶりだ。
「今はすっかり弁当屋です」と笑うご主人。喫茶店のメニューもホッキづくしで、「普通の料理も作ったらって言うんだけど、だったら作る意味がないって言うの。凝り性なんですよね」と久子さんも笑う。ホッキに恋してしまったご主人の作る母恋めしは、ほんのりやさしく甘い。
 |
 |
 |
 |
 |
- 喫茶店「ブロートン」
住所:室蘭市絵鞆町4-2-14
電話:0143-27-2777
- 母恋駅「母恋めし」売店
住所:室蘭市母恋町1丁目 ※販売は午後2時まで
- 道の駅「みたら室蘭」
住所:室蘭市祝津町4-16-15
電話:0143-26-2030
|
 |
|