| 「生まれる子が物心のつくころには、おいらたちも日本へ帰れるだろう。おいらはな、おゆき。東京なんてえことになった江戸へは帰りてえとも思わねえが、いっぱしの腕になったら、函館に戻ってちんまりした店をもちてえと思っている。あの町の人たちがよろこんでくれるような喰物をつくって、お前と子供のそばで無事に暮らしてゆけりゃァ、おいらァはそれで本望だ。おいらはな、もう店の名も考えてあるんだ」 「まあ。なんていうんですか」 「お前とおいらの店だから、雪に河と書いてせっかと読ませる。雪河亭てえんだ」 (中略) 「大きな構えでも、派手な店でもねえが、フランス料理なら函館に雪河亭てえ家がある。値段は手頃だが、味は飛切りだ。人様がそう言ってくれるような店なんだ」(『蘆火野』より) |
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