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「自然ガイドからのメッセージ〜ハードな破壊とソフトな破壊」
 
 

 8月、台風10号の大雨。釧路湿原は「戦後最大だ」と古くから住む知人が驚くほどの大増水となり泥水に覆われました。今夏は熱帯生まれの台風が直撃しても、夏といえる日のない冷夏でしたので自然環境の異常を実感しています。
 釧路湿原に溜まった泥水は一週間ほどで引き、緑一色のはずの湿原が白濁した泥色に染まり姿をみせました。その後の雨で植物にこびりついた泥も洗い流され、釧路湿原は何事も無かったように黄金色になったヨシの穂を風になびかせています。しかし、川筋を歩くと湿原に向かって流れ込んだ土砂の堆積が湿原を埋め立て破壊していることの痕跡として残されていました。
 長年続いた土木工事を伴うハードな開発による自然の破壊が全国各地で進み、自然と気楽に接することを難しくする時代を作り出しました。釧路湿原も例外ではありません。
 自然環境は享有(生まれながらに持っている基本的人権)するものとして、誰でもが等しく平等に気楽に接することができる権利とされています。自然の恩恵と気楽に接することを奪う自然破壊は「自然享有権」の侵害になります。
 自然破壊はダム、河川改修、大規模農地開発、道路など目を覆う「ハードな破壊」が従来は主流でした。しかし、今では「ソフトな破壊」も同時に進行し「生態系の止めを刺す」役割を果たしていることも指摘されています。
 自然ガイド、カヌーガイド、環境教育などを自称する分野の人々による主に営利活動による自然の利用がその事例として上げられています。これらの人々の中には仕事の営利性と快適性を求める場所、施設作りを生態系の中に要求することも多く「ソフトな破壊」を助長する役割も担っています。
 多くの場合、「ソフトな破壊」は、一見すると自然に優しいとか自然保護も装いますので、見えにくいのも特徴です。
 生態系の奥深くまで細かく侵入するカヌー利用、大量の観光客を自然界に呼びこむことが地域振興だと自慢し自然破壊をごまかす自然ガイド。地域の自然を利用しゴミだけ置いて帰える環境教育。自然界と人の接点が営利活動で広がり、「ハードな破壊」で傷ついている自然が、さらに「ソフトな破壊」で「止めを刺される」事態へと進んでいることが危惧されています。自然環境の「享有」とは「自然の恩恵を営利目的に(共有)させる権利」ではないのです。
 という本人、自然ガイドの側に身をおいています。「ソフトな破壊者」としての批判を受けなければならない立場です。自然の利用は「どのようであれ自然に影響を与え消費し、知らずに破壊していることもあることは間違いない」ということを自戒しながらの毎日です。
 自然ガイドなどは本来、人々と自然の接点を作ることで、自然保護の理解と図り、保護のため行動をうながすことが業務の原点です。自然を営利で利用する人は自然保護のために行動する実践者であることが最低の要件と思っています。「○○ガイド認定試験」という制度が生まれました。受験資格に「自然保護活動の具体的な実践」が要件となっているのかどうか、「自然破壊者」認定試験にならなければという心配もあります。
 営利で自然を利用する人の多くは私益のために、軋轢(あつれき)の多い自然保護活動には関わらず、口では自然保護を語り、自然の旨味は利用するけれど具体的な保護活動には汗を流さない、という共通項を持っています。「ソフトな自然破壊」の原因と本質がみられます。
 自然の保護を意識し、1本の木を荒れ山に植えたら自然の様子がわかります。5本植えたら自然の中身がわかります。10本植えたら樹木がわかります。100本植えたら自然を護りたいと思います。その経験を積み重ね、自然保護の思いを伝える仕事が自然ガイドの根底に必要です。
 今年もヤブ蚊にボロボロに刺され、障害者の助けも借りて1500本のアオダモの苗を植えました。自然に蘇ってもらうのは大変な作業です。
 「自然を楽しむ、気楽に接したい」ということは人としての基本的人権(享有権)です。しかし、それは豊かな自然と保全があって保障される権利です。その願いは、自然を破壊し享有の権利を奪い続ける「ハードな破壊」を先ず止めさせることで実ります。「ソフトな破壊」にも自然保護への実際の行動と内容を問うことで見極める視点が必要になっています。
 自然を気軽に楽しむということの中に、自然保護のために具体的に「行動」することを組み込んでください。自然がより身近になり、楽しめるものになると思います。自然を気軽に利用するだけでは自然は限りなく減り続けます。
   


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