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特集 森と湿原 北海道人トップページへ
野付半島,イメージ 荒涼の湿原 野付半島のトドワラを歩く
野付半島,説明 トドワラ,イメージ
霧の中、一本道を出発!
霧 野付半島は「オイデオイデ」をしている腕のような形で、長さ約26キロ、幅約4キロの砂嘴(さし)から成る。砂嘴とは、海流によって運ばれてきた砂が長い年月をかけて堆積し、それを波が侵食し、その繰り返しによって形づくられた地形である。
 小さな半島(といっても砂嘴としては日本一)だが、見どころはとても多い。まずは季節ごとに咲き乱れる花。センダイハギ、ハマナス、ヒオウギアヤメ、クロユリ、エゾカンゾウ、エゾフウロ…と書ききれないが、野生の草花が半島をうめつくす。水鳥や渡り鳥もたくさん見られる。タンチョウヅルはもちろん、ハクチョウやオジロワシ、ガンやシギ類も多い。1972年に国内で初めて繁殖が確認されたアカアシシギなど、貴重な水鳥もいる。  
 湾の内側は穏やかな浅瀬で、名物の北海シマエビがとれる。真っ赤に茹で上げたシマエビも美味しいが、新鮮な刺し身もいい。小さく身がしまっていて素晴らしく甘い。
 そして、立ち枯れの「トドワラ」や「ナラワラ」が、野付ならではの景色を見せている。トドワラはトドマツの枯木群、ナラワラはミズナラの枯木群のことだ。

トドワラ こうした自然が間近に見られるので、野付には実にたくさんの観光客がやって来る。昼間は大型観光バスが何台も着き、団体客がとても多い。自分も自然に触れたくて来たのだから、勝手なことは言えないが、あまり人が多いと楽しくない。そこで、人が少ない早朝にでかけることにした。
 朝4時。あたりは薄暗く、7月末というのに気温は10度そこそこ。さらに湿原につきものの濃い霧が立ちこめている。空気が水分をたっぷり含み、体中に湿気がまとわりつく。眠気がいっぺんに吹き飛んだ。
 半島の付け根から目標のトドワラまで約12キロ。冷たい霧の中、一本道を自転車に乗って出発した。

天国のような花畑
トドワラ 道の両側はすぐ水辺である。これが、なかなか怖かった。
 左手は根室海峡の外海で、数キロ先に国後島が見えるはずだが、霧のため確認できない。ときどき人気のない番屋が見える。右手は野付湾。岸が浅く入り組んでいて、湿地性の植物が水辺に丸く点在している。足の長い水鳥がボンヤリ見える。
 周囲には音がほとんどしない。聞こえるのは波と風の音。だれもいない。車も通らない。ここでもし転んで道をはずれ、湿原の中に吸い込まれたら――汗が冷えて背筋がヒンヤリした。

 少し走ると森が見えてきた。強い海風のため、木々は一方向に傾いて背丈も一様に低い。その先に白く枯れた「ナラワラ」がある。ここも海水の侵食によって立ち枯れが進んでいるところだ。
 寂しい風景に飽きてきたころ、「野付半島ネイチャーセンター」に到着。この建物の横から、野付湾の中の原生花園に伸びる小道があり(徒歩または花馬車に乗る)、さらに進むとトドワラの木道(徒歩のみ)がある。
野付半島,花 原生花園は天国のように美しかった。
 気がつくと朝日がすっかり登って、霧も晴れて、小鳥がたくさん鳴いている。赤、ピンク、白、黄色、藤色、水色と、色とりどりの小さな花が、野原一面に景気よく咲き誇っている。まだ固い花のつぼみに、朝露がびっしりついている。指ではじくとパラパラパラ…と気持ち良い音を立てた。水辺にはシギやチドリ、カモなどの姿が見える。さっきまでの風景がウソのようだった。大げさながら「生きていてよかった」と考えてしまった。

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