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特集 森と湿原 北海道人トップページへ
不思議の大地・湿原の基礎知識
  ●湿原とは――水界でも陸界でもなく…

 湿原とは、文字どおり「湿った草原」のことで、英語ではWetland(ウエットランド)という。ただしこれはかなり大きな概念で、Wetlandには河川、湖、沼、干潟などすべての湿地が含まれる。湿原だけを細かく見ると、moor、mire、bog、fen、marsh…など、さらにたくさんの言葉があり、いかに様々な湿原があるかが分かる。また、それだけ生活に密着した存在といえるだろう。
 元北海道大学農学部教授で、湿原研究のスペシャリストである辻井達一氏は、湿原を「真正の水界でも陸界でもなく、そのはざまに位置する存在」と表現している。そこには独特の植物や動物が住み、「生命のゆりかご」とよばれている。北海道には現在、日本の湿原の約8割が存在する。


●湿原の種類――成長する大地

 湿原のできかたは場所によって様々だが、多くは浅い湖や沼の水面が浮き草やヨシ、ガマなどに覆い隠されるところから始まる。これらの植物が枯れて水の底に沈み、そのまま堆積すると「泥炭」ができる。この状態を「低層湿原」という。代表的なのは日本最大の湿原・釧路湿原だ。
 泥炭層がどんどん厚くなり、水面の上に発達すると、「高層湿原」となる。ここは栄養が極端に少ないので、特殊な環境で生育できるミズゴケが地表をおおう。さらに、水分のバランスが変わって限界点に達すると(つまり乾燥化すると)、湿原ではなく完全な陸地になる。
 低地にあるから低層湿原、山の上にあるから高層湿原というわけではない。また、層湿原と高層湿原の中間の状態は「中間湿原」とよばれる。

→湿原発達のしくみ


●湿原の役割――地球の環境保全装置

 湿原は、タンチョウをはじめ希少な水鳥や動物たちの生息地となっている。1971年にイランで採択された「ラムサール条約」(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)は、その役割を守るための条約だ。そのほか、湿原のなかを水がゆっくりと流れるうちに有害物質がろ過される、大量の水を蓄えるダムの役割を果たす、夏の間に暖められた水が冬まで熱を保つ保温効果があるなど、自然が作り出した壮大な環境保全装置ともなっている。
 また、人は湿原が生みだすものを古くから利用してきた。たとえば、湿原を特徴づける泥炭(ピート)は、ウイスキーを醸造するときに欠かせない材料となる。ウイスキーの原料である麦芽をいぶすときに、泥炭を燃やして独特の味と香りをつける。ウイスキーの本場アイルランドもまた湿原の多い土地である。熱帯地方のマングローブ湿地ではエビやカニ漁が行われ、養殖もさかんである。


●湿原の歴史――『不毛の大地』から保全へ

 日本にはたくさんの湿原・湿地が存在していたが、多くが江戸時代から水田として利用され、早い時期から姿を消していった。稲はもともと亜熱帯の湿原の植物なので、湿原を水田に利用するのはごく自然なことだった。
 北海道でも明治時代以降に開拓が行われるなかで、排水・客土などの土壌改良事業が実施され、湿原が水田や農地などに変わっていった。かつて湿原は『不毛の大地』とよばれ、人々は懸命に開拓を進めた。
 しかし、次第に湿原の持つ機能や生態系が世界各地で注目されるようになり、各地で保全の動きが高まっている。


●湿原の楽しみ――知れば知るほど広がる魅力

 貴重な水鳥を観察する。咲き乱れる花を愛でる。季節ごとに変わる壮大な風景を感じる。川をくだる。木道を歩く。雪原を歩く。
 湿原の楽しみ方は訪れる人によってちがう。でもその魅力に一度魅かれ、湿原の成長過程や独特の生態系を知ると、ますます興味がつのり、まだ解明されていないことも多い不思議な空間にひきつけられる。
 湿原でどれだけの魅力を発見できるかは、見る側の「力量」にかかっている。できるだけ五感を磨き、自然を学び、湿原を感じてみよう。
 



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