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イメージ エドウィン・ダン
イメージ エドウィン・ダン
●羊とともに来日したダン青年
 札幌の南がわ、緑ゆたかな真駒内公園に「エドウィン・ダン記念館」がひっそりと建っている。明治の北海道開拓時代、とくに酪農の発展に尽くしたエドウィン・ダンは、「青年よ大志を抱け」のクラーク博士に比べると有名ではないが、その功績はたいへんに大きい。
 記念館の横にダンの銅像がある。木々にかこまれ、大きな台座の上に立ち、すがすがしく誇らしげだ。かれは学生たちに農業の講義をするだけでなく、率先して農作業を行った。手際もすばらしくよかった。
 そんなダンらしく、像も作業着姿に長いブーツをはき、手に牧草用のフォークを持ち、肩にちいさな仔羊を担いでいる。前足をそろえて頭をピンと持ち上げ、なんとなく羊もうれしそうに見える。
 この羊こそ、北海道の羊の歴史――つまり日本の羊の歴史のはじまりなのだ。

 日本ではじめて羊が飼育されたのは、明治6年のこと。北海道開拓使がアメリカで購入した牛と羊を、ダンが船で運んできたのが最初である。当時24歳だったダンは、ふるさとオハイオの牧場から羊180頭・牛140頭をつれて横浜の港へついた。その後、明治8年に北海道へわたり、函館にちかい七重官園で酪農をはじめる。
 ダンは牧場の場所選びから牧草づくり、畜舎づくりなど、酪農の仕事のすべてを一から行った。バターやチーズなどの加工品もつくった。翌年には真駒内種畜牧場、牧羊場を開設。このとき導入した羊は、全身が白くモコモコとしたスペイン原産の「メリノ種」で、目的は羊毛。明治になって衣服の西洋化が進み、それまで日本になかった羊毛の需要が生まれたためである。
 しかし、このときは羊の病気などの問題で飼育は普及しなかった。政府もいったんは羊をあきらめる。そのため、イギリスなどからの輸入羊毛にたよることになった。

エドウィン・ダン
[エドウィン・ダン]
1848年アメリカ・オハイオ州生まれ。1873(明治6)年、北海道開拓顧問ケプロンの要請により来日し、以後北海道の酪農と農業の発展に尽力し、「酪農の父」とよばれる。その功績は、乳肉牛、羊、馬、豚の輸入と飼育管理の指導・品種改良にはじまり、牧場の設計・管理、獣医学・解剖学の指導、西洋作物の耕作開始、畜力農機具の採用、土管暗渠排水事業の開始、農業経営や生活改善の提唱など多岐にわたる。札幌農学校の創設にも参画。1884(明治26)年からは駐日米国公使を務め、晩年は石油や造船事業なども手がけ、1931(昭和6)年に東京の自宅で84歳の生涯を閉じる。
●ホームスパンの時代
 羊の飼育は一時下火になったものの、ダンが築いた技術の礎はずっと受けつがれた。何よりも、農業に対する考え方が北海道の農業に大きな変化をもたらしている。たとえば、かれの養娘にあたるダン道子さんが書いた本にはこう記されている。

 「つねづね、日本の農家の女の人々は、たいそう働き者で、食事、育児、家事の全部をする上に畑仕事。また、牧場に働く女の人は、その上に家畜の世話も一生懸命に努め、なおも夜中まで裁縫をしている姿をよく見かけました。もちろん、働くことは尊いことであるし、私も“人間は働かなくてはならない”と思っておりますが、日本の女の人の働き方には、ずい分むだが多いと感じられて、ほんとうに気の毒だ、何かいい働き方を考えてあげようと思いついたのが、この羊毛の生産の口火になりましたわけ。(中略)このようにして羊毛を紡ぎ、布地を織る仕事が農家の女の人の内職となって、各家庭の収入を多くしたため、生活はかなり楽になりましたし、今まで毛織物をめったに着ることのできなかった人々は、寒いときの働き着として重宝がり、ひいては本土の人々は、国産のホームスパンと言って珍しがり、そのラフな肌ざわりを喜んで、たくさん注文してくださいました。」(明治43年発行『明治の牧柵』より)

 やがて、第一次戦後に海外からの羊毛輸入が禁止されると、日本政府は再び羊の飼育に取り組みはじめ、北海道はそのメッカとなる。大正7年、空知の滝川に、大正8年に札幌月寒に種羊場が誕生し、各農家で羊を飼うことが推奨された。
 農家の女性たちは飼っている羊から毎年毛を刈り、糸をつむぎ、家族のために衣類を編んだ。また、つむいだ糸を織って布にし、背広などに仕立てて副収入とした。ダンの言った「ホームスパン」が、滝川や北村を中心として北海道全体に広がりをみせた。
 それと同時に羊の数も一気に増え、昭和30年初めには、全道で40〜60万頭(日本全部で約100万頭)が飼われるまでになった。当時はどこの農家にも2、3頭の羊がいて、その毛で編んだセーターやくつ下が寒い冬から人々を守ってくれた。

牧場,イメージ
エドウィン・ダン記念館
関連情報
・エドウィン・ダン記念館
 住所:札幌市南区真駒内泉町1丁目/電話:581-5064
 開館:5月1日〜11月3日の午前9時30分〜午後4時30分
 水曜定休/無料
 
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