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特集 唄と祭り 今、新たに息づくアイヌの人びとの伝統 トンコリの音色とともに
 深く、魂をゆさぶるような音に包まれる。まるで自分が太古の時代に帰ったようだ。
 日本人を母に、アイヌ民族を父にもつミュージシャン、OKI(オキ)さんのトンコリの演奏は、そんな風に心を揺する。彼は樺太アイヌの伝統の弦楽器「トンコリ」(※1)の奏者である。
イヨマンリムセ(写真提供/アイヌ民族博物館)
イヨマンリムセ(写真提供/アイヌ民族博物館)
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 独自の文化を今に伝えるアイヌの人々にとって、祭りとはあくまでカムイ(神)への祈りであり、歌や踊りは祈りの儀式と密接に結びついたものだった。日々の暮らしはさまざまなカムイとの関わりから成り立つものと考えられ、人々は儀式を通してカムイに感謝し祈りを捧げた。
 こうした儀式には、ウポポ(座り歌)やリセ(踊り歌)などが行われる。ウポポは女性が輪になって座り、シントコという漆塗りの容器のふたをたたいて調子をとりながら歌うもので、踊りの前奏となるもの。リセは、踊りとそれに合わせて歌われる歌のことで、鶴の動きをとりいれた「サロルンリセ」や、男性が刀を振りかざして踊る「エムシリセ」などが有名である。
 また節をつけて語られるユカラなどの口承文芸や、作業のときの歌、叙情歌として知られるヤイサマネナなど、民族をこえて多くの人々の心にとどく豊かな文化が伝承されている。
ウポポ ウポポ ウポポ  その伝統を受け継ぎながら、現代の音楽と融合させる試みが始まっている。
 OKIさんのトンコリもそのひとつ。トンコリは、じつに魅力的な形をしている。アイヌの人々は、トンコリを生きものにたとえた。上部を頭、細長い部分を胴、共鳴のための穴をヘソとよぶ。へそのことをアイヌ語で「ハンカプィ」という。
 「人はふだんハンカプィのことを考えなくても生きていけるし、なくても平気かもしれない。でもハンカプィがなかったら、とてもさみしい気がします。私にとってアイヌ文化とは、ハンカプィのようなものです」
(※1)トンコリ
長さ1メートルほどもある木製の竪琴で、アイヌ民族に伝わる唯一の弦楽器。胴が細長く平たいため、内部で音が共鳴しにくい。そのため「あまり効率のよい構造ではない」といわれるが、その構造こそがトンコリの不思議で魅力的なリズムを奏でる秘密。スリムなボディが放つ音色は、無数の倍音に彩られる。
   OKIさんは親戚にトンコリを譲り受けてから、最初は「勝手に作曲して勝手に弾いていた」という。周辺をさがしてみても、トンコリを演奏する人がいなかったので、人に教わることはできない。しかしあるとき、静内町に住んでいたアイヌのエカシ・葛野辰次郎さんの語るカムイノミを聞いて、大きな衝撃を受けた。トンコリそのものではなく、アイヌ民族に流れる哲学に対してである。真っすぐに心が震えるような衝撃だった。

 OKIさんは葛野さんをたずね、自宅に住み込みで弟子入りし、葛野さんが語るアイヌ語を耳で覚えた。もちろんトンコリの演奏技術を学ぶのではなく、その心をほんとうのエカシから学んだのだ。
トンコリ トンコリ  その後、OKIさんは博物館に保管される古いトンコリや資料を見ながら、少しずつ納得できる音色を探していった。昔アイヌの人々がそうしたように、トンコリそのものも全て自分で手づくりする。最初は思うような音がでなかったが、「今はちゃんといい音が出ますよ。でも、あんまり何度も改良しすぎて、どこをいじったらこうなるのか、分からなくなっちゃったね」と笑う。

 トンコリの生み出すリズムは私たちの心に深く響く。ときにやさしく、ときにはげしく、この素朴な楽器からさまざまなリズムが流れ出てくる。
 「僕は、古いアイヌの文化を伝承することにだけに、こだわっているわけではありま せん。自分がいいと思う音楽をさまざま形で実現していきたい。そして、僕のやっていることそのものが、アイヌの文化なんだとも思う。いろいろな国の人と出会って、そこから新しいものが生まれていく。かつてのアイヌは広い海を舞台として、世界と交易を続けてきた民族ですから。僕は音楽という手段を選びましたが、それは何だってかまわないのでしょう」
 「すべてのトンコリファンへ、そして若いアイヌへ」
 OKIさんからのメッセージが、トンコリの音色とともに自由に流れ出す。
トンコリの音色(OKIさん)
   

OKIさん OKIさん
OKI(オキ)さん
神奈川県生まれ、旭川市在住。東京芸術大学を卒業後、1987年に渡米しニューヨークのフィルムプロダクションで映像撮影などを行う。1992年に帰国。古いトンコリを譲り受けてから、「自分は撮影する側ではなく、演じる側に」と意識しはじめ、ミュージシャンとしての道を歩み始める。現在は北海道を拠点に国内外で多くのコンサートに出演。1997年より国連の先住民族作業部会に参加し、世界各地の先住民族とのネットワークを広げる。アルバムに「カムイ コル ヌペルペ」「ハンカプィ」「ノーワンズ・ランド」など、また絵を手がけた著作に「カンナカムイとむすめ」がある。
  関連情報    
   
・オキさんのホームページ(チカルスタジオ)
 http://www.tonkori.com/
・北海道人「北海道を知る100冊の本」のページ
 http://www.hokkaido-jin.jp/issue/books/032.html
・(財)アイヌ民族博物館 http://www.ainu-museum.or.jp/
・(財)アイヌ文化振興・研究推進機構 http://www.frpac.or.jp/
・静内町郷土館 http://www1.ocn.ne.jp/ ̄sibchari/index.htm
・平取町立二風谷アイヌ文化博物館 http://www3.ocn.ne.jp/ ̄nibutani/
     
   
     
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