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特集 唄と祭り 歌声の向こうに、はるかなる北の海が見える 江差追分
歌声の向こうに、はるかなる北の海が見える 姥神大神宮渡御祭で奉納される江差追分(1989年7月)
歌声の向こうに、はるかなる北の海が見える
 祭りは、その土地の生業(なりわい)と深く結びついている。
 海岸地方に住む人々は漁の安全と豊漁を祈り、とくに日本海岸では海が白くなるほど押し寄せたという、ニシンにまつわる祭りが多い。江差町の姥神大神宮渡御祭のほか、福島町の福島大神宮祭礼行列、小樽市の住吉神社例祭などが今に伝えられている。
 また、土地の人々に歌い継がれる唄にも、同じように暮らしの歴史が刻まれている。江差町には、姥神祭と並ぶもうひとつの大きな伝統、海沿いのまちで育まれた「江差追分」がある。
(※1)北前船
江戸時代中期から明治にかけて、大坂を基点に瀬戸内海、日本海を通って蝦夷地まで運航した交易船。関西各地で米や酒、塩、着物などの生活物資を仕入れ、松前や江差で売り、かわりにニシンや昆布、サケなどの水産物を積んで行き、大坂などで売りさばいた。当時の道南地方は大勢の人とモノであふれかえり、江戸にも勝るほどの繁栄ぶりだった。

(※2)謙良節
「江差追分の父」ともいわれる古い唄で、今はほとんど歌われていない。伊勢松阪の民謡「松阪節」が越後に伝わり、「松阪くずし」として歌われていたものを、天明時代(1780年ころ)に松崎謙良という人物が蝦夷地に伝えたとされる。ちなみに江差追分の母は、越後追分。


江差追分(本歌)
 かもめの鳴く音に ふと目をさまし
 あれがエゾ地の山かいな

 200年以上の歴史をもつといわれる江差追分だが、そのルーツははっきりしていない。一般的には、信州の街道を通る馬子によって歌われた馬子唄が越後に伝えられ、「越後追分」となって北前船(きたまえぶね)(※1)の船乗りに歌われ、蝦夷地に渡って謙良節(※2)と合流。それがさまざまな遍歴をへて、現在の江差追分になったといわれている。
 また、アイヌの人々が舟を操りながら歌っていた唄を和人が聞き、それを訳して歌い始めたという説や、メロディーが似ていることから蒙古の唄が源流であるという説もある。

江差追分全国大会 江差追分全国大会


 ともあれ、江差の風土にとけこみ、幾度もの変化をとげてきた追分節は、北前船が消えてニシンの大群が去っても人々の心に残り、受け継がれた。姥神祭ではいまも祭りの前夜に江差追分が奉納されている。
 さらに近代では、独特の深い哀調や奥の深さから、江差だけでなく全国の民謡愛好家に歌われるようになった。
 昭和38年からは毎年9月に「江差追分全国大会」が開催され、回を重ねるごとに参加者が増えている。第40回をむかえた2002年は、約400名もの人が熱唱し、いまや民謡の歌い手の登竜門ともいわれる。たった1つの民謡がこれほどまで広がっている例はほかにないだろう。


江差追分 本唄(長江亜津子さん) 江差追分 本唄(長江亜津子さん)    昨年の大会で優勝した長江亜津子さんにその魅力を聞いた。
 「歌い手によって、全くちがう唄になることでしょうか。その人の人生というか、『人そのもの』が表われるんです。だからたとえ同じ人が歌っても、全く同じ唄にはなりません」
 優勝を勝ちえた舞台では、ただ無心に歌ったという長江さん。最後の節を歌い終えて舞台を降りたとき、満場の拍手の渦のなかで、観客の一人に声をかけられた。
 「いま、舞台の向こうに海が見えたよ」
 小さなころから唄が好きで、何千回と江差追分を歌い続けてきた彼女は、優勝より何よりもこの一言がうれしかったという。
 海で生まれ、海で育った江差追分は、美しく壮大な唄である。
     

長江亜津子さん
長江亜津子さん
民謡好きな両親の影響をうけて、小学生のころから民謡を習い始める。江差追分全国大会には13歳で初出場して以来、25回目の挑戦で全国優勝を果たした。現在は会社勤務のかたわら、各地で江差追分を歌い、その魅力を多くの人に伝えたいと願っている。将来は「江差追分を教える立場になりたい」。「どこかで民謡を聞いて、いいなと思ったらぜひ挑戦してみてください」と語る。札幌生まれ、同在住。
  関連情報




   
■第41回江差追分全国大会
  日程:2003年9月19日(金)、20日(土)、21日(日)
     (毎年9月の第三金・土・日曜日に開催)
  会場:江差文化会館
問い合せ:電話01395-2-5555(江差追分会館内・江差追分会)

■江差追分会のページ(江差町のホームページ内)
http://www.hokkaido-esashi.jp/oiwake/index_f.htm
江差追分の起源や変化について充実した記事が載っています。江差追分名人の歌声を聞くこともできます。

■江差追分会館
「思い出の名人」や「歴代優勝者」の唄を音声と映像で楽しめる『追分資料室』や、 江差屏風を描いた豪華な舞台をしつらえた『演示室』があり、4月末から10月までの 毎日、江差追分や地元の郷土芸能を実演している。畳敷きの桟敷席は広さ約百畳。ゆ ったりとくつろぎながら、江差の唄を堪能することができる。
  住所:江差町字中歌町193−3
  電話:01395-2-5555
開館時間:9時〜17時
 休館日:毎週月曜・祝日の翌日、年末年始

     
江差追分会館 江差追分会館
   
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