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特集 地図遊行
寄稿 国土地理院
北海道の地図で遊ぶ
地形図,バック

 北海道の地図と聞いて私がまず思い浮かべるのは、碁盤目の区画がどこまでも整然と広がる十勝の畑や石狩の穀倉地帯の地形図である。地形図というのは国土地理院が発行する25,000分の1と50,000分の1が知られているが、馴染みのない方が多いかもしれない。
 道路地図とはだいぶ雰囲気が違い、コンビニや交差点名なども載っていないが、そのかわり、どこに何が生えているか、家がどんな風に建っているかが一目瞭然に描かれているので、慣れてくると現地の景色が見えてくるから手放せなくなるのだ。
 私は中学生の頃から、当時まだ行ったことのなかった北海道の地形図を広げながら、あれこれ想像をめぐらせるのが好きだった。道は一直線なのに等高線がうねうねと道をまたいでいる根釧原野。こんな道はアップダウンが続きながらずっと彼方まで伸びているはずだ……。
 地形図を見ているうちに無性に歩きたくなり、数年後に根釧のその道路を歩きに行った。地形図通りに現地が起伏しているのは当たり前なのだが、とても感激したのを覚えている。風の音しか聞こえない静寂は地形図に描かれていなかったが、それ以後は原野の地形図を見ると必ずその風の感触を思い出す。
 広々とした石狩の田んぼの地形図を見ながら砂利道を行く機会もあったが、その時は本州から移住した人の出身地がたくさん地名になっているのに気付いた。石狩平野のまん中に岐阜、三重、礪波などの「ふるさと地名」が散在しているのだ。
 言うまでもなく地形図をのぞき込めば歴史も映り込んでいるのがわかる。アイヌの人たちが遺した地名をカタカナ化し、または漢字を当てたものが北海道の地名には多いが、上記のような「内地由来」のものも珍しくない。
 また地形図は、ある時点での自然の姿を今に伝える証拠写真のような働きもする。たとえば明治に入ってからも何度か噴火した有珠山が大噴火ごとに地形を変えていくのを、同地域の地形図を順番に並べることで観察する面白さは格別だ。蛇行河川がまっすぐに改修されていく過程などもわかる。
 以上わずかの例ではあるが、地形図から読みとれるものがいかに豊富であるかがおわかりいただけただろうか。一見とっつきにくい地形図だが、「習うより慣れる」ことで地形図の語り口を覚えてしまえば、あとはパソコンのソフトで鳥瞰図を画面に立ち上げるよりもずっと想像力豊かに風景を思い浮かべ、歴史に思いを馳せることができるのだ。

今尾恵介,著書

●今尾 恵介(いまお・けいすけ)プロフィール
1959年横浜市生まれ。中学生の頃から地形図を眺め暮らしてきた。管楽器専門誌の編集者を経て1991年よりフリーとなり、地図や鉄道、旅行などについての執筆活動を行っている。著書に『地図の遊び方』(新潮OH!文庫)、『地図を楽しむなるほど事典』(実業之日本社)、『路面電車』(ちくま新書)他多数があり、月刊誌では『旅』『山と溪谷』『地図ニュース』などにも連載中。財団法人日本地図センター評議員、日本国際地図学会評議員。

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