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21世紀は、森へ「恩返し」の時代 北限のブナの森、黒松内をたずねて INTRO
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富良野の森
富良野の森
有澤浩
有澤浩
クマゲラ クマゲラ
写真は有澤浩さん提供

 

複雑な森で生きる、クマゲラの暮らし

 もう50年ちかく富良野の森の生きものを追い続けている人がいる。クマゲラ先生こと、有澤浩さん。富良野に住む有澤さんの案内で、晩秋の森へでかけた。
 森のなかは冷たく澄みきった空気が充満している。深く吸い込むと身体の芯がピリッとするような空気だ。それは植物の匂いとか気温の低さといった物理的なものではなく、「森の命」が伝わってくるような感覚だった。

 数百年も生きているすばらしく立派なカツラの木が出迎えてくれる。足下には厚く積み重なった落ち葉がしっとりとぬれている。コケが光り、笹がゆれ、遠くにカケスの鳴き声がひびく。人気がなくて静かなのに、少しもさびしくない(ただしヒグマに出会うのがかなり怖い)。
 深い樹海の森である。
 「気持ちがいいでしょう。わたしはね、東京などから帰ってくると、まず森に来るんですよ」という有澤さんは、まるで子どもの自慢をするように誇らしげだ。

 18歳のころから森にすむさまざまな動物(天然記念物のシマフクロウ、北海道特有のエゾライチョウ、エゾシカ、ナキウサギ、エゾモモンガ等々)を観察し、その暮らしを明らかにしてきた。なかでも力を注いできたのが、真っ黒な身体に頭のてっぺんだけが赤いキツツキ、「クマゲラ」である。
 「クマゲラはとても頑固な鳥で、北国の天然林でなければ生きていけません。かれらをつぶさに観察していると、自然な森がもつ『複雑さ』がよくわかります」

 では、その暮らしぶりをざっと拝見してみよう。実に多様な木が必要なことがわかる。
 まず、4月から5月にかけて木の幹をくりぬいて子育て用の巣をつくる。これには直径40センチ以上の元気な木を使う。しかも、ヘビなどの天敵が登れないように、木肌が滑らかでなければいけない。クマゲラ夫婦のお眼鏡に適う木はそんなに沢山はないので、毎年同じ巣穴に戻ってくるそうだ。
 次に、かれらは生涯を通して一つのねぐらを持つが、それには幹の内部が空洞になったシナノキなどの大木が欠かせない。これは巣穴とは別である。
 また、エサをとるにはアリなどの虫がいる朽ち木が必要。仲間同士のコミュニケーションには、くちばしで木を叩いて森じゅうに響くほどの音を出すが、これにはカラカラに枯れた立ち木が欠かせない。

 これらがすべてクマゲラの縄張り(繁殖期は半径1.5キロ)内になければいけない。人間には無用に見える朽木も、若い木も老木も必要なのだ。木の種類や樹齢が均一な人工林では、かれらはとても暮らしていけない。
 簡単にいってしまったが、ここまでの生態を明らかにするのに、有澤さんは実に30年以上の歳月をかけている。そのステージとなる森林は、500年、1000年の時間をかけてさまざまな命を育んでいる。わたしたちは、自分がどんなに小さな存在であるかを改めて知った。

 

(※2)林分施業法(りんぶんせぎょうほう)
自然条件の厳しい北海道の森林では、木を一斉に伐採して植林しても森は育たない。高橋延清氏はそう唱え、1957年から北海道演習林で「森林のもつ複雑な仕組みを大きく変えない」という管理方法をとった。演習林をいくつかの施業地区に分け(これを林分とよぶ)、各林分で徹底した調査と手入れを行ない、10年、または20年ごとに適切な伐採をし、常に状態のよい天然林を保つ。この方法を実践したことにより、演習林は理想的な森林環境を維持している。

・富良野市のホームページ
http://www.city.furano.hokkaido.jp/
・東京大学北海道演習林のホームページ
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/hokuen/

 
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