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礼文島

 冬は私にとってとても大切な季節です。雪と荒海に閉ざされた北の離島。ストーブの側で夏の間に撮りためた写真を整理して、企画を立て、文章を練って、本を作る。日本酒と同じように「寒仕込み」です。こんな静けさは、昼も夜も夏も冬も休むことなく回り続ける都会の暮らしでは望めないものだと思います。
 礼文の丘に咲く花たちにとっても冬はかけがえない季節です。高山植物の暮らす礼文島西海岸では、たたきつける北西の季節風が雪を吹き飛ばし土も凍ります。根が凍て付いても生きていけるような植物だけが礼文の丘に命を繋いできたのです。高い緯度と冬の強風が標高わずか数百メートルの丘を、2000メートル級の高山帯に匹敵する厳しい環境にしています。
 礼文の花たちの様子を春から順にお話ししていきましょう。4月・桜前線が関東地方を北上するころ、雪が溶けたそばから無数のフキノトウが開花して、島に春の色を刺していきます。5月の連休のころ・最北の湖、久種湖の辺の湿原ではミズバショウのみごとな大群落が見られます。まだまだ寒い5月下旬・レブンアツモリソウは花を膨らませます。国内では礼文島だけに生育する淡黄色でゴルフボールくらいの大きさの野生蘭です。この花を目当てに全国からたくさんの人が訪れます。6月中旬・藤の花に似たピンクの花穂、ヨツバシオガマが大地から無数に立ち上がるとお花畑はもっとも華やかな季節を迎えます。ネムロシオガマ、チシマフウロ、レブンキンバイソウにレブンソウと百花繚乱といったところです。7月・日本のエーデルワイス、レブンウスユキソウは盛夏の花です。わずか7センチほどの背丈で薄雪のように白い星型の苞葉を風にまたたかせます。8月・紫のツリガネニンジンがたくさん咲くと、お花畑は早くも秋の顔になります。9月中旬・高山帯は茶色のモノトーンの世界に変わります。風は日に日に強く冷たくなり、白一色の世界が近いことを教えます。
 氷河の時代からの約束どおりに、こうして北の島の季節はめぐります。礼文島は北方を故郷とする花々を乗せた船です。悠久の時の流れに船を浮かべて花たちは旅をしています。
 その旅路、永遠に穏やかであれと祈ります。

杣田美野里

植物写真家・エッセイスト。1955年東京都八王子市生まれ。1977年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒。1992年より礼文島に在住。利尻礼文サロベツ国立公園をフィールドとして、花を中心とした自然写真の撮影をしている。また人と自然の関わりについてのエッセイも多い。夫の宮本誠一郎(写真家)、娘の柚貴(小5)と利尻の見える礼文の丘に暮らす。著書は『新版・礼文・花の島花の道』(共著2001、北海道新聞社)『北の島だより』(2000、岩崎書店)『星のうすゆき草』(2002、北海道新聞)など。

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