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特集 北の花めぐり 北海道人トップページへ
<ユウパリコザクラ> 夕張小桜
ユウパリコザクラとタルマイソウ
 もう三十数年も前のことです。誘われて夕張岳の花を探勝する機会がありました。花が好きだという人たちも参加しておりました。夕張岳の高山植物がもっとも誇らしげに咲き揃う季節でありました。足元を気にしながら前岳の横を抜けると、この山独特の花々との出会いがはじまります。いわゆる超塩基性岩特性植物を含んだ植物群なのです。
 湿原があり草原があり、岩礫地があります。それぞれの環境に従って華麗な植物たちが地表を飾ります。ユキバヒゴタイ、ユウバリソウ、ユウパリコザクラ、カトウハコベ、リシリリンドウ、ユウパリリンドウ、シソバキスミレなどなど。ここは夕張岳貴重植物の宝庫なのです。花々の美に心が奪われているとき、妙な雰囲気を感じたのです。さっきまで一緒に花を楽しんでいた連中の姿がないのですが、しばらくすると山陰から一人二人と現れてきました。リックがふくらんでおりました。ちゃんと採集許可を得ているからというのですが、なにかしっくり致しません。これは山草愛好家ではなくて、合法的山草愛盗家といわれてもしかたありません。今でも心が痛みます。
 小泉秀雄さんがあらわした、「大雪山登山法及登山案内」に黒岳御花畑のクロユリの大群落という写真があります。説明に「濫採の結果今は殆ど絶滅せるは惜しいことである。之れは氷河時代の置土産であるから保護を要する」とあります。そして書の終わりには、「寒地(高山)植物保護区域設定請願書」として大雪山を含む北海道の高山植物群落の保全、保護を提唱されております。営利を目的とする商人または好事家によって、年々山頂より採取し持ち去られる数量は少なくないと慨嘆されておられたのです。1926年のことです。多くの人の物として楽しむことはできず、密かに個人の所有物としてしか楽しめぬ歪んだ所有欲は、昔も今も変わらぬものらしいのです。解決法はないものでしょうか。
<イワブクロ> 岩袋  あるときある園芸店でキリギシソウが売られておりました。何処からどのようにして手に入れたのかと聞くと、「そんなに貴重な植物ですか? じゃあ今のうちに沢山買っておかなくちゃ…」。唖然といたしました。買い求める客がいるから売る者がいるわけです。自然とはなにか。共有の財産にはどう対処すべきなのか、何時も古く新しい課題です。
 これとはまったく逆の場合もありました。場所は樽前山。砂礫地に小石が輪に並べられているところがありました。自然の為せる技ではありません。理由はすぐわかりました。どの輪の中にもコマクサの芽生えがあったのです。樽前の山にコマクサは自生いたしません。タルマイソウことイワブクロで特徴付けられる山のはずです。誰かが故意に種を播き付けた結果です。別の登山道では壮大に育ったコマクサもあるではありませんか。下界に例えるなら、これはセイタカアワダチソウの種を播き付けている行為と同じです。樽前山にとってコマクサはインベーダーなのです。
 気の遠くなるほどの地質年代をかけて出来上がった樽前山の植物生態系の攪乱にほかなりません。別な言葉でいえば歴史的遺産を破壊する行為です。盗掘も許しませんが、よそ者の侵入も押さえなくてはなりません。どのようにしたらこの美しい北海道の自然を、損なうこと無く子に孫に伝えていけるでしょうか。絶滅危惧種の保護も急がねばなりませんが、これらを守り育てるありふれた自然の存在、役割にも心をいたさねばなりません。
<イワブクロ> 岩袋
<イワブクロ> 岩袋
鮫島惇一郎

1926年、東京生まれ。北海道大学理学部大学院修了後、同大理学部助手を経て農林省林業試験場に出向、北海道支場育種研究室に勤務。育種研究室長、造林第二研究室長を歴任し、1985年辞職。現在は「自然環境研究室」を主宰し、自然観察や自然環境保護などについて講演や執筆活動等を行う。
主な著書は『エンレイソウ』(北海道テレビ放送)、『草と樹』(北海道新聞社)、共著『北海道森と林』(同)、共著『札幌から見える山』(北海道大学図書刊行会)、共著『新版北海道の花』(同)、共著『原色図譜エンレイソウ属植物』(同)、『北の森の植物たち』(朝日新聞社)など多数。

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