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金時豆の香り 浅田峰子
金時豆  チリ…チリ…チリー…。
 タイマーの音が聞こえてきた。
 そう。金時豆を火にかけておいた、キッチンのほうから、ちょっと青臭いようなにおいがする。火をとめて。

 鍋のふたをとると、湯気いっぱいの間から、程よく煮えた豆の濃いエンジ色がのぞいている。ひと粒指でつまんで、軽く押してみると、フッと潰れる柔らかさ。
 ちょうどよい煮え加減に、お玉で三杯くらいボールにすくいだし、先ほど作っておいたドレッシングの中に、汁気をきって入れて、しばらくおく。
 これはサラダにしよう。

 残りの鍋の煮汁の量をみると、少し多いので、豆の量半分くらいがかぶる程に残して、余分なものは捨てて、砂糖を入れる。(少し甘味を控えめに)とすると、200ccの料理用カップで一杯くらいに、塩を小さいスプーンで半分くらい。
 火をつけて木杓子で軽く混ぜながら、やや強火で煮ていると、5〜6分で煮汁と砂糖、豆がからみ合ってとろりとしてきた。
 おいしい煮豆ができあがった。
  金時豆
<金時豆の煮豆>
  金時豆サラダ
<金時豆のリヨン風サラダ>
※写真提供『楽しいお豆の本』
(グラフ社/東京都渋谷区東1-26-26
 電話03-3409-4610)


 昔は、居間のストーヴの上に大きな鍋をのせて、日中の少し暖かい時に、火が音もなく静かに燃えているところで、いつの間にか豆が煮えていたものだったナ。
 「今日の雪は“小やみ”ね」などと、家族の話の他はテレビもCDもない家の中は、案外―寂―としていたように思う。現在のように、私たちが料理記事を書くときに、豆は、ほたる火の弱い火で…等と書かなくとも、当時は土地の生活の中に、産地で穫れたれたものは、炊くのにも丁度ほたる火くらいのストーヴの火があったのだ―と。

 ブラジルの有名なフェイジョアーダ(小豆のような黒い豆の煮込み)や、アメリカのポークビーンズ(白いんげんと肉の煮込み)も、昔ながらの土地による作り方、食べ方である。生活様式の変化で、火力や料理道具が変わっても、料理そのものはその土地に残ることが多い。
 穫れたところで、それに合った作り方が一番おいしい、ということだろう。料理の紀元にまで思い及ぶのは、長い人生を過ごした者の感慨だろうか。
 金時豆の香りに包まれながら、懐かしいふるさとの情景を思う。

 さて、豆のサラダについて。
 最近、豆の食物繊維が体に良いと云われて久しいので、手軽に作れるサラダをお試しください。
 北海道のキュッとしまった玉葱を1/4個くらい、みじん切りにして、布巾に包んで軽く水洗いして、水気を絞ってボールに入れ、酢1/2カップ、油(あればオリーブ油)1/3カップ、白ワイン大さじ1杯、塩・コショウをよく混ぜます。その中に、煮えたての豆を入れて味をなじませます。他に、きゅうりやセロリ、トマトなど少しあしらってください。若い方たちもぜひ食べていただきたい一皿です。


 
◆豆産地・北海道
北海道でとれる豆は、大豆、小豆、いんげん(金時豆もいんげんの一種類)などがあり、それぞれ全国一の生産量。大豆は全国の約2割、小豆は約8割、いんげんは約9割にものぼる。日本の伝統的な食生活に欠かせない豆は、北海道の大地が支えている。
◆浅田峰子(あさだ・みねこ)
料理研究家。1928年東京で生まれ、2歳頃から北海道へ移り、函館や札幌などで過ごす。札幌静修女学校で就学後、上京し大妻女子専門学校を卒業、武蔵野クッキングスクールなどで学び、1960年に「浅田クッキングサロン」を設立。書籍、雑誌、新聞などで活躍するとともに、食品会社の商品開発なども手がけながら、和・洋・中国料理の専門料理をいちはやく家庭に紹介した第一人者のひとり。著作はすでに70冊を越え、近著に『料理徒然草』『基本の台所』(2002年4月5日発売)(ともにグラフ社刊)がある。

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