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特集 雪の楽園<パラダイス>北海道人トップページへ
「雪の感触」 はた万次郎北海道,イメージ
スキー,山,はた万次郎 この冬は、毎日のようにスキーをしている。
 幸い、ボクが暮らしている地方は雪がふんだんにある。
 このあたりはバナナでクギを打てるくらい気温が低い。だから、雪質はウィンタースポーツをする者なら誰もがうらやましがるパウダースノーがあたりまえである。
 スキーは一人でもできるが、誰かを誘っていっしょに行ったほうが楽しい。この冬は近所に体を鍛えるのが趣味という男を発見したので、彼を誘ってゲレンデに行く機会が多い。
「これからスキーに行かないかい」
「いいですよ」
 何日も前から計画を立ててスキー場行くことは少ない。思い立ったら、すかさず誘いの電話をかけて、一時間後には友人とともにゲレンデに立っていることが多い。わが家から一時間以内に行けるスキー場はボクが知っているだけでも十か所ある。このあたりは人口密度が低いためだろうか、あるスキー場に朝から行ったら、営業終了時間まで他の客が誰も来なかったことがあった。完全に貸し切り状態だったわけである。
 テクニックやスピードを競うのもいいが、ボクはオリンピックに出る予定はないので、もっぱらスキー板から伝わってくる雪の感触を楽しむことにしている。最近はゲレンデが荒れてくると所々にできる小さなコブの上を通過して、小さくジャンプするのが楽しい。飛距離はせいぜい二メートルくらいだけど、「この百倍を飛んだらオレだってオリンピックで金メダルだぜ」と言って、自分自身をはげましている。
 スキーはスキー場でやるだけのものではない。家から一歩出ると、そこには雪がある。雪さえあれば、そこはゲレンデと言える。スキー場ですべり足りない時はスキーをはいて家のまわりを歩き回る。ちなみに、わが家にはいわゆる「歩くスキー」というのがないので、家のまわりを歩く場合もアルペン用のスキーをはいている。かかとが固定されているスキーだからと言って歩いてはいけないという法律はないのだ。降りたてのふかふかした雪の上を歩く時は、なんとも言えない快感である。気がつくと家のまわりの雪をすべて踏み固めてしまって、除雪作業する必要がなくなっていることもしばしばある。
 長年雪のある地方で暮らしていても、人の手の入っていない雪の世界に足を踏み入れる人はきわめて少ない。長靴では雪の中に沈んでしまう場所も、スキーをはいていれば雲の上を歩くように進むことができる。わが家の裏には山があって、犬の散歩もかねてスキーをはいて行くことがある。人家がなく誰も来ない山のふところに入っていくと、スキー場では味わえない静粛な世界が広がっている。人の足跡はなくてもウサギやイタチの足跡が雪の上に残っている。姿を見せることは少ない野生の動物たちだけど、彼らがそこで生活していることを実感することができる。
 雪国ならではのぜいたくな時間の過ごしかたは、まだまだたくさんあると思うのである。
スキー,山,はた万次郎
はた万次郎プロフィール

1962年北海道釧路市生まれ。
18歳で上京。電電公社に勤めながら、プロの漫画家をめざす。
23歳の時、プロの漫画家としてデビュー。
30歳の時、東京を離れ、北海道上川郡下川町に移住。
主な著書「ウッシーとの日々」「北海道青空日記」「北海道田舎移住日記」。

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