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結晶博士,イメージ 現代の雪博士たち <2> 特集 雪の楽園<パラダイス>
 かつて中谷博士が解明できなかった問題―「雪はなぜ六角か」を追い続けた研究者に、北海道大学低温科学研究所の小林禎作教授がいた。その小林博士とともに約20年間にわたり雪の観察を続けてきた古川さん。今さらに、氷の結晶成長という新しいテーマに取り組んでいる。
結晶博士,イメージ <結晶博士> 氷の結晶成長のメカニズムに挑む――古川義純
 氷の結晶も、雪の場合と仕組みは異なるが、見た目はよく似た六角の繊細な形に成長する。氷の結晶はどんなメカニズムで成長するのか、これが北大低温科学研究所の助教授、古川さんの研究テーマである。雪と同じく、とても身近な存在である氷。しかし、その仕組みはまだ多くの謎に包まれているという。その謎がわかれば他の分野にも広く応用できることから、貴重な基礎研究として注目を集めている。氷だけでなく、結晶構造をもつすべての物質に応用できる、裾野の広いテーマである。
 その成長課程を解明するために、今までさまざまな実験が行われてきた。しかし地上の実験ではどうしても限界があった。というのも、氷の結晶が成長するときには微量の熱が生まれる。それが結晶の周囲に拡散し、重力の影響で対流(熱の流れ)が発生する。対流は結晶成長に大きな影響を与え、結晶の対称性を乱す。つまり結晶の形が崩れてしまうのだ。そのため純粋な成長を調べるには、無重力下での実験が不可欠となる。

 古川さんは山口大と共同チームをつくり、宇宙開発事業団(NASDA)が募集した「国際宇宙ステーション(ISS)」の研究テーマとして、氷結晶の実験を応募した。これが1992年のこと。このとき数百以上の中から、古川さんらのテーマも見事選ばれた。ところがその後、ISSの計画はかなり遅れてしまい、選ばれた50件のうち約半分はすでに中止になっているという。
 しかし、古川さんはその間も着実に研究を進め、94年に砂川市の廃坑を利用した地下無重力実験センターで初の無重力下の実験に成功。98年にはNASDAのロケット実験で、世界で初めて宇宙での結晶成長を記録することに成功した。その様子は、約6分間の映像として完全に納められている。

 近い将来、ISSでの計画が一部前倒しとなり、アメリカのスペースシャトルで実験が行われる予定となっている。古川さんらの実験もシャトルで行われる3つのうちのひとつに選ばれた。研究チームは、いよいよ目前となったチャンスにむけて準備を進めている。すでにシャトル内で使う実験装置も完成させ、あとは打ち上げを待つばかりとなった。
「研究のテーマは、最初に目的がしっかりしていることが第一ですが、いつも新しい視点をもって見つめ直していくことも大事です。いつも好奇心を持ち続けることが、私たちの原動力なんですね」
 古川さんの科学者としての姿勢には常に2つの基本がある。雪や氷といった身近なものを対象として、そこから新しい「科学の芽」を発見すること。そこにいつも新しい好奇心を持ち続けること。これからもさまざまな成果が、古川さんの研究室から生まれてくることだろう。
結晶博士,古川義純
古川さん


結晶博士,古川義純
北海道大学低温研究所にて


雪,結晶
写真提供:古川さん
■古川義純(ふるかわ・よしのり)
1951年、滋賀県浅井町生まれ。 北海道大学理学部地球物理学科大学院卒業、1978年より同大学低温科学研究所助教授。中谷宇吉郎の弟子のひとり、故小林禎作教授とともに雪の結晶の研究を行う。現在は雪氷相転移ダイナミクス研究グループを率い、おもな研究分野は結晶成長学、雪氷物理学、表面物理学。
・北海道大学低温科学研究所 雪氷相転移ダイナミクス研究グループ
 http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/ ̄frkw/

 
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