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雪崩博士,イメージ 現代の雪博士たち <1> 特集 雪の楽園<パラダイス>
 北海道で活躍する雪の研究者、科学者たちをご紹介したい。分野はそれぞれちがうけれども、雪をめぐる情熱は共通している。まず最初は、雪崩の研究の草分け的存在である秋田谷さん。豊かな知識と穏やかな人柄は、雪の世界の重鎮である。
雪崩博士,イメージ <雪崩博士> 雪を知り、雪と遊ぶ------秋田谷英次
 「雪崩学」という言葉に、秋田谷さんの共著『最新雪崩学入門』(山と渓谷社)という本で初めて出あった。秋田谷さんは日本の雪崩研究の第一人者であり、いまも毎年のように雪崩防止講習会などで講義を続けている。雪が地面に積もってから、どのように変化していくのか、どんなメカニズムで雪崩が起きるのか。こうした「雪を科学する」ことが、彼の研究分野のひとつである。その成果は各地の現場で生かされ、雪崩による被害を確実に少なくしている。
 雪崩などのいわゆる「雪害」の研究を行う一方で、秋田谷さんにはもうひとつ大きなテーマがある。10年ほど前から『雪を考える会』の会長として活動を続け、現在のライフワークはもっぱらこちらである。それは、人が「雪に親しむ」ことだ。

 その拠点として開設されたのが、秋田谷さんのふるさと北村にある「北の生活館」。ここには大学の教え子たちをはじめ、古い仲間、新しい知人、親子、夫婦、子ども、先生、いろいろな人間がやって来て、秋田谷さんを囲みながら雪や自然について学ぶ。「北の生活館」は秋田谷さんの私設博物館であり、自然観察所であり、農園であり仕事場であり、雪と自然を愛する人たちの安らぎの場である。
 「『雪と遊ぼう』といって、子どもを連れてきた母親が、自分は寒いからと室内に引っ込んでいてはダメです。大人も子どもも一緒になって自然にふれて、いろんなことを学んで、賢くなって帰っていただく。それがこの場所の目的でもあります」
 雪の中に大きなイグルーを作ってキャンプをしたり、スノーランタンを作ったり、秋田谷さんが考案した雪中ゲームの数々で、だれもがいつの間にか夢中になっている。また、夏は畑で野菜を作り土と親しむ。農業に触れ、周囲の植物の観察なども行われる。
 こうして自然の中に身を置いて、生きた知識に触れることが何より大事なのだ。見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触るといった「五感」を使うことが、いまの子どもたちには絶対的に不足していると秋田谷さんは指摘する。

 秋田谷さんが、素早くスノーランタンを作ってみせてくれた。使う道具はラベルをきれいに取った一升瓶と、瓶より一回り大きいバケツだけ。まずバケツの中央に一升瓶を置き、その周りに雪を入れる。すきまに押し込むようにぴっちりと入れる。そして、瓶をゆっくりと抜く。バケツをひっくり返して雪面に置き、静かに持ち上げる。この中にロウソクを立てて火を灯す。
 雪の側面から、やわらかい灯がこぼれた。かつて秋田谷さんが所長をつとめた北大低温科学研究所には、いまもクリスマスになるとスノーランタンが並ぶという。
 冷たくて暖かい手づくりのランタンを眺めながら、秋田谷さんの話は、雪から派生してどんどん広がっていく。科学、産業、文化、動物、植物、地球、宇宙へと果てしなく―。本当に学ぶ楽しさとは、こういうことなのだと改めて思った。
雪崩博士,秋田谷英次
秋田谷さん


イグルー,北海道
北の生活館とイグルー


ノースランタン
スノーランタン


ノースランタン
スノーランタン
■秋田谷英次(あきたや・えいじ)
1935年、空知郡北村生まれ。61年北海道大学農学部卒業、63年同大学低温科学研究所 助手、のちに同研究所教授、所長。雪氷災害を専門とし積雪の変態、雪崩の発生機構 などを研究。大学を退官後、97年より「雪と土に親しむ北の生活館」を開設。現在は 北星学園大学教授(文学部・自然科学論)。著書に『雪氷調査法』(北海道大学図書 刊行会)『雪国の視座―ゆきつもる国から―』(毎日新聞社)『決定版雪崩学』(山 と渓谷社)(ともに共著)などがある。

 
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