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  北海道人

鮭,網おこし
日の出前からはじまる定置網の「網おこし」

大橋勝彦
大橋勝彦さん

鮭
 
 
特集 鮭ものがたり 大地と海と神と
  母なる西別川をたずねて
  鮭の大地を旅して、森と川と人に出会う
●西別川の鮭はなぜ美味しいか  

 西別の鮭は、西別川の河口から沖合にある定置網で獲られている。定置網の数は15。最盛期には夜明けから夕方まで水揚げ作業が続く。
 西別川の鮭がなぜうまいといわれるのか、その秘密をさぐるため、別海漁業協同組合の理事であり、現役の漁師であり、ドナルドソン・トラウトというニジマスの改良種の研究所長でもある大橋勝彦さんを訪ねた。大橋さんは、「西別の鮭のことなら彼に聞け」と評される人物である。
「西別の鮭が美味しい理由は三つあって、川と、海と、鮭の記憶」と大橋さんはいう。
 なんだかわくわくする話だ。
 
 川がなぜ鮭を美味しくするのだろうか。
 「その秘密はこれだな」と大橋さんが見せてくれたのは、小さな細い円筒型のもの。鉄分の固まりだという。
 西別川を取り囲む湿地帯では長い年月をかけて、鉄分がヨシやヤナギの根に付着する。やがて植物が枯れて、丸く穴のあいた石だけが残り、いつしか西別川に流れ込む。小さな笛のように見えるこの石は、地元で「味の笛」と呼ばれ、これが西別鮭の味に影響しているという。
  では海はどうか。
 西別川で生まれた鮭は、4年ほど北太平洋を旅して帰ってくる。その回遊経路は、ほぼ確定していて、どの海を通るかもわかっている。調査によると、西別川の鮭の通る道すじは、どこもエサの豊富な「海のゆりかご」だという。
 海に出た鮭たちは、いろいろなエサを食べて育つ。アミやエビなどの甲殻類も食べる。エビをたくさん食べた鮭は、身の色がずいぶん赤くなるそうだ。赤い色の鮭は、焼くと甲殻類特有の甘い香りがたちのぼる。日本人は大のエビ好きで、この手の香りにはとても弱い。西別川の鮭も、このような甲殻類をよく食べているのだそうだ。
 そして美味しい鮭を作る「記憶」とはなにか。
 鮭は川に上りはじめるとエサを一切食べない。だから河口から産卵地までの距離が長くなればなるほど苦しい旅になる。鮭たちは、その旅程をちゃんと身体に記憶しているらしい。
 西別川の河口から産卵場所までは、ゆうに100キロを越す。長い道のりに備え、西別川の鮭はみな筋肉を鍛え上げ、満タンのエネルギーを蓄えて前浜に帰って来る。身離れが良いという西別の鮭の特徴は、この鍛え上げられた筋肉によるものだ。
 「本当のところは良くわからないけれど、たぶんこの三つがからみ合って、西別の鮭がうまいといわれるようになったのではないか」
 大橋さんはちょっと誇らしそうにいった。



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