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サケ,漁,屏風
蝦夷風俗十二ケ月屏風 八月 サケ漁図

サケ,神社
嘉保町の鮭神社(出典:ふるさと情報ふくおか)


●もっと知りたい方は
財団法人
アイヌ文化振興・研究機構
http://www.frpac.or.jp/
北海道立北方民族博物館
http://www.ohotuku26.or.jp/
hoppohm/
アイヌ民族博物館
http://www.ainu-museum.or.jp/
国立歴史民俗博物館
http://www.rekihaku.ac.jp/
国立民族学博物館
http://www.minpaku.ac.jp/
ふるさと情報ふくおか
(嘉穂町 鮭神社)
http://www.fmw.or.jp/
city/048/index.html
 
特集 鮭ものがたり 大地と海と神と
神になった魚---カムイチェプ
神になった魚---カムイチェプ サケをアイヌ語でカムイチェプという。神(カムイ)の魚(チェプ)という意味である。
 毎年群をなして川を上るサケを、アイヌの人々は貴重な食として大切にしたのだろう。最近、北海道の各地で復活しているアシリチェプノミは、サケを迎え、神に感謝し、豊漁を祈る毎年の儀式である。
 アイヌ語でサケをシペ(Sipe)ともいう。真の魚、という意味だ。主食という意味もある。本当に大切な魚だったことが、これらの呼び名からもわかる。
 アイヌ民族にとって身の回りのものは全てカムイの国からやってくる。サケもまた、神の国からやってきたのである。自らもアイヌ民族のひとりであり、北海道大学教授であったアイヌ研究者・知里真志保は、論文「神謡について」のなかでこう語っている。
「アイヌにおいては、獣鳥虫魚介草木日月星辰みな神である(―というよりも、神々が我々人間の目にふれるときに限り、かりにあのような姿をとって現れる、という考え方である)」
 獣鳥虫魚介草木日月星辰みな神である、という表現がすごい。
 サケは神の国からやってきて、人間の国で食べものになり、また神の国へ帰っていく。
 このような精神文化は、北方圏に共通しているもので、たとえばカナダ先住民にも「サケの国」の伝説がある。
 日本でもサケが神になった地域は多い。
 北海道よりはるか南、九州の福岡県嘉穂郡嘉穂町には「鮭神社」がある。地域を流れる遠賀川は鮭の南限の川といわれ、ここにサケが上った年は豊作になるとされている。境内には「鮭塚」があり、毎年12月13日に献鮭祭が行われている。この地域の人々は、サケを神の使いと考え、たとえ「サケ缶」でも絶対に食べないそうだ。
 民俗学者・菅豊の調査によると、サケがご神体となっている神社は、金色に光るサケに乗った神を祭神とした京都府舞鶴市の大川神社野々宮社、乾サケの骨をご神体とした鳥取県の乾鮭大明神、石川県珠洲市の辛鮭の宮など9カ所にのぼる。その他にサケがさまざまな縁起や、儀礼にかかわるケースはたくさんある。
 サケ神たちは、むしろ人間とかかわる<ものがたり>のなかに、生き生きとした姿を登場させる。たとえば「夕鶴」で知られる鶴女房伝説に似た「鮭女房」のものがたり。巨大な幻魚、鮭の王「大助(オースケ)」のものがたりなどである。柳田国男の『遠野物語拾遺』にも、鮭の皮が流れてきたことで変事を察知し、危難を救った話や、神隠しにあった娘の家に一尾の鮭が跳ね込んだことから、娘の化身として以来鮭を食べない家の話などが出てくる。
 アイヌのものがたりにも、サケ神たちは勇躍する。たとえば水を汲みにいった娘(あるいは男の子)が月に連れて行かれたことを、サケが母親に教える神謡がある。他の魚が教えないのに、鮭は「神の魚と大切にしてくれたから、教えてやろう」というのである。
 食べものや、生きものをそまつにしている今の私たちは、カムイチェプに「わたしたちをそまつにするから教えないよ」といわれるような気がしてならない。

◆参考資料
知里幸恵『アイヌ神謡集』(岩波文庫)
柳田国男『遠野物語拾遺』(柳田国男全集)
菅豊『修験がつくる民俗史―鮭をめぐる儀礼と信仰―』(吉川弘文館)



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