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特集
  <寄稿>川へ帰るサケの謎 木村義一
 川で生まれたサケは、やがて北太平洋で生活する。夏は北へ、冬はカリフォルニア沖あたりまで南下して餌をとり、3〜5年で親になると川を上り産卵する。その川が生まれた川(母川)であることは、50年以上も前に日本、アメリカ、ロシアで確かめられている。放す稚魚に印を付け、帰る年に上ったサケを調べたのであるが、日本では97パーセント、他の2国では98パーセントがその川で放したものであった。サケにとって母川は絶対なのである。
 サケたちになぜ母川が分かるのかは、一般に「生まれたときに記憶した水の匂い」が定説になっている。なにせ、ある物質についての実験では、犬の5万倍の嗅覚を示したほどで、母川の水を容易に識別することが出来るのである。とは云っても、匂いが何千キロも離れた北の海に届くとは考えにくい。では、匂いが届くところまでは、何で方角が分かるのかとなると、今も謎である。謎はまだある。人工ふ化が進んで、稚魚が生まれた川(A川)から他の川(B川)へ運んで放すことが多い。そのサケたちが親になって上るのは、どうやら、生まれたA川ではなく、放したB川のようである。薄情にも絶対のはずの母川を、簡単に忘れるというのであろうか…。
北海道,イメージ 近年になって、サケと同類のヒメマスは、視覚を主体に帰ることが分かってきた。あるいは、サケにも主体となる別の能力があるのかもしれない。もし、その能力が地球上の位置(座標)を知ることだとしたら…。生まれた場所から北の海までの経路を刻々と記憶し、それをたどって帰ってくる。もちろん嗅覚も重要な補助手段である。そうすれば、北の海から方角を定めることも、生まれた川へたどりつくことも当然である。B川の問題も、B川へまずたどりつき、それを経由して、絶対である生まれたA川へ帰ろうとしているのかもしれない。放したB川の場所に、稚魚を運んだトラックを置けば、サケが乗ってA川に帰るかもしれない。
 この証明の術もない「座標説」は、際限のない妄想をかきたてるのである。

サケの忌避する匂い
サケ,グラフ,忌避する匂い「サケは人間嫌い!?」
カナダで調べたサケ(マスノスケ、ギンザケ)の親魚の遡上尾数。魚道を上るサケが、どんな匂いに反応するかを調べたところ、トド、熊、人など、天敵の匂いを忌避することがわかった。人の匂いの場合は、バケツ1杯の水で手をすすぎ、それを川に流し込んだという。(ブレットから)

●木村義一(きむら・ぎいち)プロフィール
1931(昭和6)年、福岡県いわき市生まれ。5歳から北海道に住み、北海道大学水産学部増殖学科を卒業。水産庁北海道さけ・ますふ化場千歳支場に勤務ののち、北見支場次長、根室支場長、本場(札幌市豊平区中の島)次長を歴任し、サケ・マスの増殖事業に打ち込む。1990年より千歳市サーモンパーク、サケのふるさと館の設立準備にあたり、94年から98年まで千歳サケのふるさと館館長。97年より「北海道サケ友の会」理事。著書に『鼻まがりサケ談義』(北日本海洋センター)『サケ』(HTBまめほん)『カムイ・チェプ』(インディアン水車100周年記念事業実行委員会)など。

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