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北海道人特集

単なる映画祭ではない―飲み、喰い、語り、唄い、踊る(1999年)
↑単なる映画祭ではない―飲み、喰い、語り、唄い、踊る(1999年)

[何も起こらない時間を撮る]

 「『この1年が勝負だ』って決めてました」と、転機を振り返る。2005年、「画が美しい」という理由で続けていたフィルム撮影を取りやめ、乏しい中からビデオカメラを買った。チームでの撮影を最小限に抑え、自らファインダーを覗いて親しい仲間たちにレンズを向ける。やがて、気づいた。
 「『こういう画を撮りたい』っていう姿勢から、解放されたんです。誰を、いつ、どういうふうに撮っても、その人の本質は変わらない。それに気づいてからは、不思議と以前よりもいい画が撮れるようになって…」
 レンズの存在をほとんど意識しない登場人物たちが、傍らの田代さんに語りかける。自身の仕事の話をしていた農家の男性が急に社会問題を語り出し、いっとき無言に戻って作業を再開したと思ったら、不意に若いころの体験を回想し始める。カメラの前では、何の事件も起こらない。だが、すべて「画」になった。
 「勝負だ」の決意通り、田代さんは06年2月にカメラを止めた。ビデオ転換後に増えた映像素材は約97時間ぶん、フィルム撮影時の5倍に及ぶ。すぐに編集に取り掛かった監督は、「たぶん04年以前の画は使いません」と言い、パソコンの前で使い慣れない編集ソフトと格闘を続ける。120分間の長篇『空想の森(仮題)』は、08年にも世に出る見込みだ。

“D型倉庫”を活用した映画館「豊之進劇場」
↑“D型倉庫”を活用した映画館「豊之進劇場」

[変わるもの、変わらないもの]

 森とともに過ごした10年間で、20歳代だった田代さんは不惑手前になった。3人の仲間たちも一緒に歳を重ね、周りの人たちも同じように成長した。「人は変わっていく。それが生きてるってことだから。でも同時に、いつだって変わらないものもある」と知った。いつ、どう撮っても、人の本質は変わらない。それがわかったのは、陽の目を見ない3万6000フィートを回し続けたからだった。
 「知らなかったからこそできた」と思っている。

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