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イッセー尾形が惚れた場所−札幌麻生コスモス作業所の話
北海道人特集
「コスモス作業所のヨーコさんとイッセー尾形・らのこと」イッセー尾形
イッセー尾形のイラスト1
イッセー尾形のイラスト2

 1994年頃だったろうか、早朝、しかも雨の向ヶ丘遊園でコマーシャルの撮影隊が集まっていた。
 その中に、一人沖縄のおばあみたいなヘアースタイル、ジャージの上下、というらしいんだけれど、運動選手が着る線の入った服を着たヨーコさんを紹介された。
「ヘアメイクの三宅さんです」
 へーぇ、と思ったのは、このヘアメイクの人スッピンだ。ヨーコさんと呼ぶようになるのは、それから何年も後になってからだ。
 このCM撮影の数日で三宅さんは他のヘアメイクさんにはあり得ないアイデアと現場対応で、僕らに強烈な印象を与えていた。数年後、札幌に嫁に行ったと聞くやいなや、三宅さんは「かでる2・7」の劇場へと現れた。けど、誰かのお嫁さんになったとは、とても思えないやはり黒目がちの瞳を細くして、
「イッセーさん、どうよ!」
 ともう楽屋のカツラを手にとって、
「あらあら、ちょっとクシを入れても良いですか?」
 と片づけを始めている。何年ぶりだろう、そんな時間差も感じさせないで、しかも厚かましさがカケラも無い。この小さな魔女のような活力が、周りの人をどれだけ生き返らせているだろう。
 未だにヨーコさんの事をダンナさんは「ミヤケ」と旧姓で呼んでいる。実に二人の距離の取れた生活ぶりを現しているようで、僕や僕のスタッフも「ミーヤ」とか「ミヤ」と自然に呼んでいるのに驚く。
 今、彼女は知的障害の方々と一緒に僕のイラストをTシャツに作ってくれている。古い着物をほどいて洗って、アイロンかけて、反物にもどしてそれを前掛けに作り直している作業を見学に行ったこともある。このアイデアは僕のスタッフとヨーコさんとで開発したものだ。作業所はアパートを改造したところで、12月の半ばを過ぎた頃、雪に埋もれた階段を朝、雪の中からかき出したと、これまた、なんのことは無いと云わんばかりに、「ミーヤ」は笑って教えてくれる。
 初めて会った時から、ずっと一定の安定感で「ミヤケ」が目の前に居ることで、僕と僕らスタッフはどこに旅立って、どの街で一日を終えるときも、コスモス作業所に旅の報告を送るのが楽しみになった。
 ふと知り合った、かすかな知人程度で終わるはずのものが、なんと10数年にわたって育って、新しい職場を支え合うまでになっていて、いつも友達も無く一人ぼっちで居ると思い込んで一瞬落ち込みそうになる僕をコスモスの存在が明るく照らしてくれている。

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