HOME > 「心でつくる」ごあいさつ > 第1回 「旭川美景園」

「心でつくる」

木材を磨き、技を磨き、命を吹き込む、『旭川美景園』の木工製品

文・写真/大藤紀美枝

自然林に囲まれた旭川美景園。時折、エゾリスやキタキツネも顏を出す↑自然林に囲まれた旭川美景園。時折、エゾリスやキタキツネも顏を出す

磨き作業に励む利用者たち。1日の作業時間は、最も長い人で5時間↑磨き作業に励む利用者たち。1日の作業時間は、最も長い人で5時間

作業器具(補助具)も手づくり。微調整が利きしっかり固定できる↑作業器具(補助具)も手づくり。微調整が利きしっかり固定できる

紙やすりを巧みにあやつり、職人業で磨き上げてい く斉藤利春さん↑紙やすりを巧みにあやつり、職人業で磨き上げてい く斉藤利春さん

動物の顏は線が命。紙やすりを入れて慎重に形作っていく(右)↑動物の顏は線が命。紙やすりを入れて慎重に形作っていく(右)

磨きの最終チェック担当の石田和江さん(39)は、木工19年のキャリア↑磨きの最終チェック担当の石田和江さん(39)は、木工19年のキャリア

クラフトマンとしての思いを1ピースに込めて

 クマがいる。ライオンがいる。ウサギやリスやヘビもいる。5センチ角のピースを並べ木製遊具「どうぶつ パズル」が完成すると、眺めているだけ頬がゆるむ。
 製作した旭川美景園(社会福祉法人 旭川健育会)は、旭川市神居(かむい)町にある社会就労センター(旧重度身体障害者授産施設)で、現在、50名(定員)の利用者が木工あるいは園芸に励んでいる。「できあがっただけ、全部!」と、豪胆な注文が入る「どうぶつ パズル」は、売れ筋商品だが大ヒット商品ではない。大量生産できないからである。
 旭川美景園の利用者は、脳卒中で片半身がまひしたり、交通事故で車いすを必要とするようになるなど、重い障がいがあるため、作業内容・時間は自分の意志のみならず身体機能や体力とも相談しなければならない。そうしたこともあるけれど、大量生産できない一番の理由は、「お客さまは一人」という意識をもって細部まで目が行き届く手仕事に徹し、品質保持を最優先しているからである。
 「木は生きている。一片たりともむだにせず、形作って命を吹き込む」「1個目の製品も100個目の製品もお客さまにとっては1個目」など、利用者に浸透した“ものづくりの心得”を聞くと、パズルを眺めているだけで頬がゆるむ理由がよくわかる。

よい製品づくりの基本は木工を楽しむこと

 旭山動物園の大人気で北海道観光の目玉に躍り出た旭川だが、昔も今も木材・木工のまちである。昭和60年、旭川美景園が木工作業を開始したのは、製材所から大量に排出される“端材”に着目したからである。クルミ、キハダ、シナ、ニレ、セン…北海道育ちのそれらの樹木は加工しやすく、個々の味わいがあり、板目も柾目もおもしろい。端材だから木目優先とはいかないけれど、かなりの安値で手に入る。
 製品のデザインと切り抜きは作業課職員が担当し、磨き、塗装、組み立て、袋入れは利用者が行う方式で、これまで遊具や実用小物を数々生みだしてきた。ちなみに「どうぶつ パズル」は、旭山動物園の売店「動物園くらぶ」の「動物の特徴を木の温かみで表現してほしい」との依頼により誕生したもので、まさに木工と旭山動物園の旭川ならではの特産品である。
 「売り上げが伸びるとうれしいし、仕事をやって少しでも体を動かせば筋肉がやわらかくなる」と、紙やすりを持つ手を休めることなく話す斉藤利春さん(58)は、長年漁業に勤しんだが減船で転職、18年ほど前、脳卒中で倒れて療養生活をし、社会的自立を目指して旭川美景園に入所した。木工に取り組んで16年、左半身がまひしているため、重しなどの補助具を活用し右手だけで木製パズルと木枠を磨き上げていく。
 開設して23年、利用者の平均年齢は年々上がって58歳を超え、介助や見守りが必要な人も増えてきた。そうした中にあって一定の売り上げを維持しているのは、「技術の向上もあるが、意識の問題」と、生活支援部作業課長の小原直人さんは分析する。自分たちが作った製品が全国に広がっていく喜びは大きく、売上目標を達成する充実感は格別である。それを知った人は意識が変わる。1日でも1時間でも10分でも長く作業の場にいたい。そう思わせる木工は、真剣に取り組むほど楽しさが増すらしい。

このページの先頭へ


「心でつくる」ごあいさつ

「心でつくる」出品

「心でつくる」特集