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北海道人インタビュー連載5
北海道人
受賞後、初めて見た隅田川

 深川、本所、柳橋――北海道に住み、暮らしながら江戸の風情を描く。
 そこには様々な困難があるような気がしてならないが、宇江佐さんは気にとめない。
 「現在の東京は、コンクリートで固められていて、江戸の風情が失われつつあるし、むしろこちらの田舎のほうが当時を想像できる。だから必ずしも東京を知らなくてもいいんですね」
 江戸の地図と想像力が、宇江佐さんの武器である。
 『深川恋物語』で吉川英治文学賞を受賞するが、その授賞式で上京するまで、なんと舞台となった隅田川を見たことがなかった。実際に見たときには「えっ、これが隅田川」と、イメージの違いに驚いた。マンションが建ち並んで、妙にだだっ広い深川も、実際に見ていたら書く気がうせただろうと話す。

 逆に、江戸東京からはるかに離れた北海道にいたからこそ、江戸の風情への、自由闊達で、のびやかな想像力が広がっていったのだろう。
 「話をすると、東京の下町生まれと思われるんです。函館の浜言葉と、江戸の下町言葉に、近い印象があるのかもしれませんね」
 北海道発の江戸には、どこか独特な風合いの魅力があるのかもしれない。


宇江佐真理,写真
函館から紡ぎだされる今を生きる時代小説 作家 宇江佐真理さん
江戸,時代,地図
宇江佐真理,写真

 そして日本広しといえど、宇江佐さんだからこそ書けるテーマもある。
 それが松前藩、蝦夷ものである。
 『憂き世店 松前藩士物語』では、松前藩の国替えによって浪人となった松前藩士夫婦の、人情あふれる江戸の暮らしが描かれる。また『蝦夷拾遺 たば風』では、幕末から明治にかけて、蝦夷・松前や江戸を舞台に、松前藩や箱館戦争にかかわる人々の物語が展開する。
 「蠣崎波響の『夷酋列像』を見たときに、すごくおどろいたんですよ。この田舎にこんな素晴らしい絵を描く人がいると。それで書き始めたのですが、やはり地元だし、使命感みたいなものがありました。甥っ子が松前の役所にいて、資料の便宜を図ってもらったり助かっています」。
 すべての藩が稲作による米を基盤に成り立っていたのに対し、蝦夷地の物産の商いによって成立していた、きわめて特異な性格をもつ松前藩は、蝦夷地の動乱、北からのロシアの進出、箱館戦争と、多くのドラマによって満たされている。そのドラマをつむぐ語り部として、宇江佐さんは格好の存在だろう。
 藤沢周平は、出身の山形・庄内藩を舞台に、海坂藩の物語を書いたが、宇江佐さんにとっての松前藩は、同様のライフワークとなる可能性があり、楽しみだ。



宇江佐真理,写真

 デビューして10年。
 時代小説は蓄積であり、3年後より5年後、10年後のほうが充実している、と宇江佐さんはいう。となると、私たちはますます、宇江佐さんの次の物語を読みたくなる。妻から母へ、そして子供たちも親離れしていき、台所の視点も静かに熟成していく。
 「デビュー当時は、まわりが見えなかったけれど、今は余裕を持って見回せる。私は時代小説を書いていますけれど、現代に通じる世相、社会的な不安などに関心をもって、物語にとり入れています。その時代にあった時代小説があるんです。IT革命といわれる現代にあって、本当は時代小説のような昔の話はいらない。でもそれを買って読む人がいるのは、日本人としての気持ちや感情は変わっていないからでしょう。人としての感情を共有したいという思いがあるかぎり、私のような時代小説家が求められるのだと思います」

 直木賞候補になることすでに6回である。いつ受賞するのか、私たちとしてはハラハラし通しだが、ご本人はいたって鷹揚に見える。考えてみれば、池波正太郎も宮部みゆきも6回目にしての受賞。最多記録をもつ古川薫は何と候補に挙がること10回、25年目の受賞だった。まだまだ、これから、だ。




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