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北海道人インタビュー 連載2 北海道人トップページへ
ボランティア,福祉,北海道,渡辺一史 「これは僕だけの本じゃない。 ひとりでも多くの人に読んでほしいと思う。」
三年の歳月をかけて執筆した初の単行本で 講談社ノンフィクション賞を受けた渡辺一史さん
渡辺一史(わたなべ・かずふみ)さんプロフィール
ボランティア,福祉,北海道,渡辺一史 ボランティア,福祉,最後の一冊
 地方のある出版社が、地方の無名のフリーライターの著書を発行する。テーマは障害者。数えきれない取材を重ね、一冊の本が完成するまでに約三年かかった。
 著者は渡辺一史さん。書名は『こんな夜更けにバナナかよ』、という不思議に印象深いタイトルである。

 この本が講談社ノンフィクション賞(※1)の候補作の選考グループの目にとまった。候補作はあらかた選び終わっていたが、北海道中心に販売されていたこの本のことを、彼らは知らなかった。締め切りまぎわになって、たまたま出版社から届いたこの本に、彼らの心は動いた。

 7月、渡辺さんに突然の電話があった。
 相手はベテラン編集者で、『こんな夜更けにバナナかよ』が講談社ノンフィクション賞の最終選考に残っており、賞が決まった場合は受けてくれるだろうか、という旨の電話だった。
 初めて話す編集者は感想をこう述べた。
 「ボランティアの人たちが実にいきいきと描かれている。普通の人がこんなに魅力的なノンフィクションはない」
 そして9月、正式に受賞が決定した。彼は全国が注目する書き手となった。


ボランティア,福祉,北海道,渡辺一史 ボランティア,福祉,鹿野氏とボランティアたち
 『よるバナ』(※2)は、筋ジストロフィー症で重い障害を抱えた鹿野靖明氏と、その周囲に集まったボランティアの物語である。描かれているのは、どこにでもいる「ごく普通の人々」だ。

 「福祉やボランティアに全く興味がなかった」と渡辺さんはいう。
 最初は編集者から「書かないか」と持ちかけられたテーマだった。正直なところあまり乗り気ではなかった。
 そのままではよくある障害者とボランティアの心温まるストーリーになってしまう。どうしたら、自分の納得のいく本が書けるだろう。答えが見えないまま、編集者が持ってきた「介助ノート」を何度も読み返した。
 介助ノートとは、24時間交替で鹿野氏に付き添うボランティアの「引き継ぎノート」で、その日の様子や気がついたことなどが自由に書いてある。さまざまな悩みと日常を抱えた若者の言葉が綴られ、いらだちや不満もあり、イタズラ書きもあり、自分への反省もあり、反問もある。

 それにしても、優秀なボランティアを自分の「秘書」と呼び、新人ボランティアたちには「研修」をほどこす「教師」となる。そうやって鹿野は、自分にふりかかる境 遇を、すべて能動的に解釈しなおしていく。そうしたたぐいまれなあつかましさがあった。
 この家は確かに「戦場」だった。
 しかし、それは鹿野が病気と闘っているから、というだけではないと私は思う。
 確かに病気とは闘っている。在宅医療・福祉の制度充実を求めて、闘ってもいる。
 しかし、鹿野が何より闘っているのは、マイナスカードの多すぎる人生を、あくまで主体的に能動的に生ききろうとする果てなき闘いであると私は思うのだ。(本文より)

 深夜にバナナがほしいとボランティアをたたき起こす鹿野氏。新人ボランティアに「帰れ!」と怒鳴る鹿野氏。
 そんな「支配的」な障害者とつきあい、彼らはなぜボランティアを続けるのか。
 渡辺さんは、自分もボランティアとしてローテーションに加わり、タンの吸引や体位交替、鹿野氏の身体につながるたくさんの機械の調整を少しずつ覚えながら、ボランティアたちの取材を進めていった。実にゆっくりと、深く。

 そのうちに、渡辺さんは「聖人君子の障害者と優しいボランティア」という型通りのものなど存在しないことを身をもって実感し、理解しはじめる。
 本に登場するボランティアは全部で20人以上にものぼり、それぞれボランティアをはじめたきっかけも、それを続ける理由もちがう。「生きる意味がほしい」と感じていた者、マージャン三昧の毎日のなかで、ふと「オレ、何してるんだろう」と不安になった者、一見順調に教師の勉強をしながら「どうもバランスが悪いんです」とため息をつく者。

 「今は健常者だって生きるのがタイヘンだから」と鹿野もいっていたが、タイヘンなのは障害者だけでなく、健常者であるボランティアもまた、彼らなりのタイヘンな現実を生きている、というごく当たり前の事実に、私はようやく気づき始めていた。(本文より)

 ボランティアは、鹿野氏のなかに自分の一部を置いていたのではないか。託していたというのともちがう、自分を置くという感覚。鹿野のなかにいる自分、自分のなかにいる鹿野。死に向かいながら、その恐怖とたたかい、生を思いっきり生きる存在。それは特別でもなんでもない、普通の人間の姿なのだととらえたとき、渡辺さんの本は、九分通り完成したのだと思う。

 鹿野氏は、本の完成を見届けることなく2002年8月に亡くなった。


(※1)
ノンフィクション分野で「大宅壮一賞」とならぶ二大登竜門のひとつであり、その年に出版されたノンフィクションの中から、選考委員会が優れた作品を選ぶ。1979年設立。

(※2)
タイトル『こんな夜更けにバナナかよ』の略。このタイトルは、身体のほとんど動かない鹿野氏が、真夜中に付添のボランティアの青年に「バナナが食べたい」と言ったセリフからつけられた。本の中でそのことが印象深いエピソードとして語られている。

ボランティア,福祉,渡辺一史
『こんな夜更けにバナナかよ――筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』
▼北海道を知る100冊でも紹介しています
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/books/059.html
『よるバナ』は下記のサイトからご購入できます。
▼北海道新聞社
http://www.aurora-net.or.jp/doshin/book/tachiyomi/konnayofukenibananakayo/index.html
▼Amazon.co.jp
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4894532476/ref=sr_aps_b_/249-1061725-0444321
▼bk1
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3f9f1285857b20103faa?aid=02cecile01&bibid=02299026&volno=0000
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