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北海道人インタビュー 連載1   緑の天然芝から野球少年の夢はばたく 栗山町に手づくりの野球場をつくった栗山英樹さん 栗山町に手づくりの野球場をつくった栗山英樹さん
    野球,北海道,文章 野球,道具,写真 野球,説明
    野球,北海道,文章 構成・文/円子幸男 写真/酒井広司
   
    「芝だから楽しい」の発送を出発点に
野球,球場,北海道 坂をのぼる途中に栗山さんの野球場はある。両翼70メートル。かわいらしくも、こぢんまりとした球場だ。
 激しい蝉しぐれのなか、さっそくマウンドに立ってみた。一塁側の後方には栗山町の街並みが稜線越しに見える。反対の三塁側後方には、広大な松林が空の青さに負けじとばかりに濃緑の葉をまとって屹立している。
 だが何といっても目を引くのは、内外野を覆っている天然の芝だ。日を浴び、風を受け、緑色がいかにも楽しげに踊っている。おとぎの国の野球場に迷い込んだかのようだ。
 「初めてここを訪れたとき、ここならできるかもしれないなって思いました」
 ここならできるかもしれない――実は栗山さんには十数年来の夢があった。野球グッズなどを眺めながらグラス片手にスポーツのことを語りあえる場をつくること、そして野球場――それも全面芝の野球場――をつくること、の2つである。

野球,北海道,栗山英樹 大リーグの取材などでアメリカ各地を訪れ、栗山さんは日米のスポーツのありようの違いを痛感した。たとえば大リーグのボールパークの周辺には球場に入れなかったファンのためのスポーツバーが必ずあり、野球のことなどを話題にして充実のひとときを過ごすことができる。「これこそ文化だ」と思った。
 「仕事柄なぜ日本ではスポーツが文化にならないのかって考えるんですけれど、その一因は芝にあるんじゃないかと思うんです」
 中学生のころ、ある硬式リーグの日本代表に選ばれ、米軍横田基地で試合をしたことがある。そのときのグラウンドが内野までぜんぶ芝。見るからに楽しそうで、その美しさに感動した。「あんなきれいなところで野球できたことは一生忘れられませんよ」というほどの鮮烈な体験だった。

 今でこそ大リーグ中継のおかげで全面芝の球場も見慣れたものとなったが、当時は、いや現在もなお、内野はおろか外野も土のグラウンドで泥まみれになってやるのが日本の野球だ。日本の本格的な球場で内外野とも天然芝なのはわずか2カ所。ましてや少年野球などがどんな環境で行われているか、あとは推して知るべしだろう。そこに立ってみただけで心がゴムマリよろしく弾んでくるような球場など、まず皆無だ。
 「天然芝は転がっても痛くないし、安心してプレーできる。だから楽しい。楽しいからもっとうまくなろうって頑張れる。土の上で泥だらけになって野球やるのも必要ですが、それよりも『楽しい!』って思えることが先じゃないでしょうか。芝の上だと転がっても痛くないから楽しいという発想、それがスポーツの文化だと思うんです」
 そんな熱くも壮大な思いが、栗山さんの野球場づくりには込められている。
 昨年9月、落成記念に地元の少年野球チームの試合が行われたのを皮切りに、現在、無料で一般開放されている。大会などで使用されるよりはむしろ勝手に子どもたちが来て、知らない子同士が一緒になって野球に興じてもらうのが理想だという。
 「結局、大人がやってあげられるのは、環境づくりだけなのかなあ」
 そうつぶやいたあと、栗山さんはすぐにこう付け加えた。
 「いや、なにもエラソーに思ってるわけじゃないんですよ。正直いうと、僕自身が一番うれしいんです。ここへはたまにしか来られないけれど、朝起きてグラウンドを見ると、幸せだなあって思いますもの。ほら、あの芝を見てると、何かワクワクしませんか」
 横田基地で全面芝のグラウンドに目を輝かせた少年の姿が、そこにあった。


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