HOME > 連載【となりの北海道人】『私のお父さん』第3回

連載【となりの北海道人】『私のお父さん』

第3回

*話すこともあまりなく、聞くことも少ないお父さんの話。でも、お父さんにまつわる話はおもしろいんです。

■019『“村長”と呼ばれていましたね』

菅原邦治さん(59)=スリランカカリー『ポレポレ』店主、札幌市出身、札幌市在住

 ―お父さんのお仕事は?
 北海道庁の“農業改良普及員”をしていました。私が幼少の頃は網走近くの村に赴任し、農業技術はもちろん生活改善や教育の指導、祭事までとりしきり“村長”と呼ばれていましたね。山形出身で訛りがひどく、口下手。“痛みはじっと耐えろ”という寡黙な人でした。
 ―お父さんの内面に触れることは、あまりなかったのですか。
 酒を飲むと父は人格が変わりました。普及員だったので各家を回り、お酒をふるまわれる。そこでの失敗談がありすぎて「酒乱で人に迷惑かけていた」という印象が強かった。
 ―今でもその印象は変わりませんか。
 父は平成元年に亡くなったのですが、お葬式に網走時代の父が指導した青年団の方々がたくさん札幌まで来てくれて・・・・・・。その時に、父が彼らにとても信頼されていたことを知りました。父と表面じゃない部分で付き合ってくれていたんだな、と嬉しかった。その後、その人たちとは年賀状のやりとりを今でもしています。

(楢戸ひかる)

■020『“空気”で伝える人です』

高澤慧輔さん(20)=大学生、札幌市出身、札幌市在住

 ―お父さんは、どんな人ですか。
 思っていることを言葉ではなく、行動や“それとわかる空気”で伝える寡黙な人。大事なことはきちんと言ってくれるけど、細かいことは一切言いません。
 ―受信アンテナがしっかりしていないと、わからないこともあるのでは。
 母の受信アンテナがしっかりしていて、わからないときは解説してくれるので助かります。父は大学を卒業後、好きな建築の仕事に就いていたのですが、祖父との約束を守って運送業を継いだと母から聞いています。そういうところも父らしいと思います。
 ―お父さんに関する最近のエピソードは。
 父からの誕生日プレゼントということで、一緒に柳ジョージのコンサートに行ったのですが、普段、遊びに行ったりしない父とコンサートの場にいる感覚が新鮮でした。父と同年代でハジケテル人もいるのに、父は椅子に座ってしみじみ味わっていて、静かに楽しんでいるのが“空気”でわかりました。

(道産ヨネ)

■021『お母さんに一番優しい』

斉藤実桜さん(6)=保育園児、札幌市出身、札幌市在住

―札幌に雪が降ったけど、お父さんとはどんな雪遊びするの?
(家の近所にある)サイクリングロードで雪だるまつくる。もう少ししたら、スキーもするんだ。スキーは初めてする。
―お父さんのスゴイところは、どんなところ?
キライなものでもがんばって食べるところ。魚とか野菜とか本当はあんまり好きじゃないんだけど、実桜や蒼真が(好き嫌いがあるのを)真似したらダメだからってがんばって食べているんだよ。
―蒼真(兄)、実桜(本人)、晄詩(弟)の3人の中でお父さんは誰に一番優しい?
……(しばし無言。やっとポツリと)お母さんに一番優しい。だって、おんぶしてたもん。実桜には、実桜が「おんぶして」って言わないとしておんぶしてくれないのに、お母さんは何も言っていないのに、おんぶしてもらってた。

(楢戸ひかる)

■022『支えてもらったな、と思ってます』

寺澤有紗さん(28)=主婦、札幌市出身、札幌市在住

 ―お父さんはご健在ですか?
 私が小学校3年生の時に両親が離婚して以来、一緒に暮らしてはいませんが元気です。夏休みや冬休みには弟と父の家に遊びに行き、ベタベタにかわいがってもらいました。
 ―お父さんにはどんな感情をお持ちですか?
 今も昔もずっと大好き。父は「離婚したから子どもに申し訳ない」という接し方は一切しなかった。元々の性格なんでしょうけど、いつも脳天気に「あ、夏休みだけど、いつ来る?」と聞いてくれたので、私も「えーとねぇ○日」みたいなノリで遊びに行けたのかも。
 ―お父さんとの縁が続いていて“よかったな”と思った出来事はありますか?
 今年の夏、ダンナと離婚しようと思った時ですね。ダンナに対して許せない部分があるのは確かだけど、母から「別れな、別れな」とせっつかれても、大嫌いにはなれないもので……。その時に父が「見捨てられないよな」と言ってくれて、「うん、そうなの」と自分の気持ちに素直になれて踏みとどまりました。父に支えてもらったな、と思っています。

(楢戸ひかる)

■023『座右の銘は、父の言葉すべて』

鈴木全明さん(58)=葬祭業、十勝管内鹿追町出身、札幌市在住

 ―お父さんのどんな姿を憶えてますか。
 私の小さいころの両親は、夏の繁忙期は日の出から日没まで畑に出て農作業に明け暮れの日々。作業の主役は両親と愛馬で、現在の機械化された農業は夢のまた夢でした。食事の時は円形のテーブルを全員で囲むんですが、父はストーブを背に座り、私は父の隣が暗黙の決まりごと。学校や近所で悪さをしたことが不思議と食事中に話題になって、最悪の時には拳骨か薪ストーブの火鋏でゴツン。今ではとても懐かしい思い出です。
 ―戦争に行った世代ですよね。
 青年期に肋膜を患って、戦争に行けなかったんです。生前、同級生や兄弟が戦争で亡くなったことをよく話してました。「病気さえしなければ戦争に行けたのに」って。父が80歳で他界してもう5年になりますが、生前の言葉や行動が今でも思い出されます。私の座右の銘は、父の遺した言葉すべて。これからも父の背中を思い出して歩んで行こうと思っています。

(小笠原 淳)

■024『名言「たんすの角に小指」』

西尾久さん(29)=介護福祉士、富良野市出身、旭川市在住

 ―お父さんは、どんな人ですか。
 温厚ですね。これといって叱られた記憶がないんですよ。ただ、「怒ったら怖いだろうな」というのはありました。小学校低学年のとき、大声で「コラーッ」と言われ、1回切りだけど、かなりインパクト強かったんだと思います。
 ―お父さんとの思い出は。
 忙しかったのかな…父と遊んだ記憶がないんですよ。親子の会話もあまりなかったし。ただ、就職してしばらくして、父に「どうだ、その後?」と聞かれたとき、まさかそういう質問がくると思っていなかったので驚きました。「おっ、これが大人の会話か」って感じで、内心うれしかったです。
 ―他の人にも伝えたいお父さんの名言(迷言)は。
 「たんすの角に小指」。思いがけないところで痛い目に遭うことがあるから、注意してしっかりやるんだぞと解釈し、自分の子どもにも常々、言っています。

(道産ヨネ)

■025『腕立て、6年生になったら父ちゃんを抜かせる』

信田陸斗さん(6)=保育園児、札幌市出身、札幌市在住

 ―父ちゃん料理するの?
 朝は母ちゃん、夕飯は父ちゃんが毎日作る。お好みやきとか。フライパンの熱いやつにのっけてやるの。父ちゃんが作ってくれるのでリクが好きなのは肉とキャベツ。
 ―父ちゃんと何して遊ぶの。
 教えない。(ニヤっと笑って、こちらの顔をのぞき込み)教えたげよか?うんとね、家ではボーリングゲームしたりビー玉遊び。公園に行ったらサッカーしたり腕立てを一緒にしたりする。リクは毎日腕立てしているから、保育園で一番強い。
 ―腕立てなんてすごいね。父ちゃんに教えてもらったの。
 自分で考えた。リクは100回腕立てできる。父ちゃんは130かな。まだ父ちゃんのこと抜かせないけど、小学校6年になったら抜かせるの。

(楢戸ひかる)

■026『育ててくれたのが親だと思うから』

たかしさん(46)=ホームレス、夕張市出身、住所不定

 ―お父さんに叱られた記憶はありますか。
 全然ないんだよね。中学の時からいろいろ悪いことやってたけど、警察に捕まっても怒られなかった。一緒に煙草喫ってたぐらいだし。ただ、1回だけ家裁の廊下で殴られた。なんで怒ったのかよくわからんけど、それだけ。
 ―大人になってからのつき合いは。
 おれが19の時に脳溢血で倒れて、寝たきりになって2年後に死んだ。今、母ひとり子ひとり。って言っても、ホームレスになってからはおふくろにも会ってない。…おれ“もらいっ子”だから、ほんとの親じゃないんだけどね。
 ―本当の両親は、北海道にいるんですかね。
 わかんない。っていうか興味ない。血ぃ繋がってなくても、育ててくれたのは夕張の両親だから。自分で、親父に似てるとこあるなって思うよ。煙草の本数多いとことか、ほとんど酒飲めないとことかさ。倒れてからはおふくろと交代で見舞いに行った。咽喉に穴開けて栄養摂っててね、医者には「絶望」って言われたけど、最期まで2年間つき合ったよ。

(小笠原 淳)

■027『本当にこの線がいるのだろうか?』

鯨森惣七さん(58)=イラストレーター、室蘭市出身、札幌市在住

 ―絵を描く時に、工夫するのはどんなことですか?
 たとえばね。本当にこの線がいるのだろうか? ということを考える。あっても、なくてもいいのなら、それはいらない、と思う。いらないものを外すと、他の線が活きてくる。そういうことが美しさを造っていく。あたたかさを感じるシンプルをめざしていく。
 ―シンプルって何ですか?
 自然の世界に近づくことだよ。自分の欲で、余計な出っ張りを増やして、バランスを重くしてしまう……。整理する勇気を持つこと。自分のダメなところを受け入れ、認めること。自分を壊すこと。
 ―そんな哲学はどこから生まれたんですか?
 オヤジがストーブ工場をやっていた室蘭は海に囲まれた土地。そのせいか海が好きで、若い頃は八丈島の海辺で暮らした。海がシンプルを伝えてくれる。活きることを教えてくれる。

(楢戸ひかる)

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