HOME > 鯨森惣七の「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」vol.5

鯨森惣七の「陽だまりがあれば地球人 」より「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」

cuziramori

小樽の地図

小樽編その5

この花園で、なんとも粋なオヤジを知っている。もー何年も前のことだが、酔っぱらった勢いでのれんを潜った店がある。そのオヤジは、丹前を羽織ったまま、鮨をにぎるわけだ。
大きな笹の葉のうえに、ヒョっとのせたのが、塩漬けされた白菜のニギリだった。いや、それが味わったことのない絶品なのだ。塩味と白菜の甘ニガイ風味がここちよいのだ。
てなこと、昼の花園を素通りしながら思いだしていた。

イラスト「粋な丹前オヤジとほんわかオーラのミニスカートギャル」

初夏気分が、そうさせたのか、バスに乗って隣町に行ってみることにした。たしか、南小樽方面に、龍徳寺がある。入船十字街からバス停四つぐらいで、寺の独特なひきしまった風が流れていて、その緊張感に包まれてみたいと思った。
しかし、バスに乗った途端、寺に流れる古風な風が消えていくのを感じた。真っ白な素肌の輝いている足を組みながら、化粧直しに夢中のミニスカートのギャルに出逢ったからだった。ボクは、そのほんわかしたオーラに吸い寄せられていく。バスの中は空席だらけであるにもかかわらず、クモの巣にかかってしまったモンシロチョーのように、その子の近くに座ってしまう。どう考えても、不自然な行動をしている状態と言えるのだ。
にしても、上下左右と揺れ動く、バスの振動を柔軟にコントロールしながら、化粧を仕上げていく技には感動してしまったのだ。そしてボクは、睨みつけられるまで、その感動の技を見詰めていたようだ。

イラスト「水槽のデカイ金魚達」

ボーっとしてたんですネ。予定のバス停よりひとつ手前で降りてしまった。
寺を捜しながらトボトボ歩いていたら、ウィンドウ越しに水槽を照らす蛍光ランプの青白い明かりに、またしても引き込まれるように、近寄って行ったのだ。
今日は何だか、輝くものにときめいてしまうのだ。古いタイプの金魚屋さんの引き戸をあけた。ジュブジュブと空気の竜巻が、水槽の奥で音を立てている。デカイ金魚が竜巻の横を抜けて、ゆらゆらと踊る水草の間から、ボクを2秒ほど見詰めた。水槽の奥には、はてしなく暗くて長い洞窟があるようで、妖しいときめきを覚えた。バスのあの子はどうしたんだろう? 世の中には、平気で他人に声をかけて、自分の世界へとひきずりこんでいく勇気のあるヒトもいる。しかし、ボクには、そのような嫌らしいことはできない。ああ、できない。てなこと水槽の金魚にささやいた。

(つづく)

《プロフィール》

鯨森惣七(くじらもり・そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。
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