
地域から文学の力を発信する―函館にはそんな志をもった「函館文学学校」や、作家・井上光晴が主宰した「函館文学伝習所」があった。
著者は、その文学学校や文学伝習所に学び、函館の同人誌に参加しながら作品を書き続けてきた。北海道の同人誌関係者のなかでは、よく知られた書き手である。
著者は、現役のケアマネージャーとして、現在東京に在住。介護体験をもとにした「付添人のうた」がカネボウヒューマンドキュメンタリー大賞の優秀賞を受賞している。
その介護や看護という、人間の行き着くところをテーマにした彼女の作品は、現場体験にもとづく重さと深みをもっている。最近の小説に多いあざとい饒舌さや巧みさではなく、鈍く光る、訥々とした直截な語り口は、「地域の書き手」として鍛えられてきた、70歳をこえた著者の、巧拙をこえたものである。
本書には、新風舎出版賞の審査委員長・井狩春男が選ぶ井狩春男賞を受賞した短編作品「ゴッホの靴」をはじめ、6編が集められている。
表題作『ゴッホの靴』では、仲間を死なせてしまったことでホームレスとなり、入院してくる登山家をとりあげる。看護師の目から見た彼との出会いと、死。どこの病院にもある、ありふれた風景のなかに、人間が生きることの哀しみがある。ゴッホの靴とは、彼が最期まではき続けた、ゴッホの絵の靴のような登山靴のことである。
これら生と死と老いの物語と、心静かに向き合った6編である。 |