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<98>村上 龍 著 『希望の国のエクソダス』
『希望の国のエクソダス』村上 龍 著

『希望の国のエクソダス』
村上 龍 著
文春文庫 刊
2002年5月 発行
本体  590円
ISBN4-16-719005-2

 
◎北海道を舞台に、「希望の国」の実験が始まる

 本書は2000年に書かれた近未来小説である。
 その近未来は、すでにやってきている。
 
 「この国には何でもある。…だが、希望だけがない」
 バブルの後遺症から立ち上がれない経済、機能不全を起こし大量の不登校を生みだした教育。希望のない暗澹と沈んでいく日本のなかで、こう話す中学生たちは、日本の国家システムからのエクソダス(脱出)を開始する。
 インターネットを通じて集まった中学生のネットワークをベースにしてビジネスを開始した彼らは、ITを駆使してまたたく間に、金融・産業を網羅する巨大なビジネスネットワークASUNAROを生み出していく。
 そして、その「経済」を武器に彼らが向かったのは北海道だった。
 ASUNAROの約30万人が北海道に移住。札幌と千歳の間にある「野幌市」をベースに、風力発電でエネルギーを確保し、地域通貨を発行し、環境税を全面的に取り入れた法人税の改革を行い、日本とは異なる独自のシステムを運用する。つまり、日本の閉塞を突破する新しいシステムを、新しい人々である若者が、北海道で実現させるわけだ。
 まさに彼らは北海道に「独立」の地を生み出すのである。

 なぜ北海道なのかという問いかけは、本書のなかに何度も出てくる。
 「土地が広くて気分がいいんじゃないかと思ったんです」
 「北海道は梅雨がありませんから」
 「ASUNAROと北海道の人々は…コンフリクション(矛盾)がなかった」
 「北海道と沖縄の人はどういうわけかいい人が多い」
 しかし、なにより作者が「希望の国」の実験モデルを生み出そうと考えたとき、旧弊のしがらみのない、未来にのみ可能性をもつ北海道こそ舞台として最適だったのだろう。
 
 本書を現実と向き合ったファンタジーと評した人がいた。
 このファンタジーは、北海道に生きるわたしたちに、現実を変えることへの希望と勇気を与えてくれる。政治・経済を扱った小説の多くが、時間とともに陳腐化するのに対し、本書が時のなかで色あせないのは、そのためだ。

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