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<92>井内佳津恵 著 『田上義也と札幌モダン』
『田上義也と札幌モダン』井内佳津恵 著

『田上義也と札幌モダン』
井内佳津恵 著
 北海道新聞社
ミュージアム新書
 2002年4月発行
 本体 1,100円
ISBN4-89453-217-4

 
◎札幌の都市風景を生んだ建築家

 札幌のまちを歩くと、ときどき驚くほどモダンな古民家と出会うことがあった。
 その多くは民家の宿命として姿を消し、跡地には高層マンションが建っているが、いまでもその片鱗には触れることができる。たとえば円山公園近くにあるレストラン、アン・セェリジエ(旧相内邸)、藻岩山麓にあるロイズ珈琲館(旧小熊邸)などである。

 これらを設計したのは、北海道を代表する建築家だった田上義也である。
 大学で建築を学んだ田上は、「英語のできる建築家」の募集に応じて、帝国ホテル建築事務所に入る。当時、アメリカの高名な建築家、フランク・ロイド・ライトの設計のもとで、帝国ホテルの建築が進められていた。
 ロイドのもとで帝国ホテルの建築に従事した田上に大きな転機が訪れる。ホテルの竣工披露パーティのまさにその日、関東大震災が帝都を襲うのである。
 その震災直後、田上は夜行列車に乗り北海道へ渡り、以来70年にわたって、数多くの建築を北海道に残し、北海道の建築家の第一人者となった。
 日本の伝統様式から自由な洋風の民家は、まさに札幌モダンというにふさわしい。日本的ではない美しい北方の都市景観のイメージを生み出すことに果たした建築デザイナー田上の功績は、どれほど強調しても足りない。その札幌のイメージを生み出した立役者が、ふらりと訪れた移住者であったことも、北海道らしい。
 田上の存在は、北海道を生み出すのは、人の力である、という事実の証明であり、その人とは、道産子だろうと、道外からの移住者だろうと関係がない、ということの証明でもあるだろう。
 
 本書は、そんな田上の入門書として手頃な評伝である。しかし建築寄りに興味のある者としては多少もの足りなくもあり、田上の業績を集大成した著作が出版されていないというのは少し哀しい。

バックナンバー
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『象を洗う』
099 永倉新八 著
『新撰組顛末記』
098 村上 龍 著
『希望の国のエクソダス』
097 石川啄木 著
『啄木歌集』
096 小林英樹 著
『色彩浴』
095 三國清三 著
『料理の哲学』
094 斉藤征義 著
『宇宙船売却』
093 きらん出版会 編・刊
『きらん 魅惑の室蘭・胆振ガイド』
092 井内佳津恵 著
『田上義也と札幌モダニズム』
091 村上春樹 著
『羊をめぐる冒険』上・下
090 『faura』
089 新穂栄蔵 著
『ストーブ博物館』
088 司馬遼太郎 著
『街道をゆく38 オホーツク街道』
087 『北海道かるた 方言編』
086 池澤夏樹 著
『静かな大地』
085 小檜山博 著
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084 大崎善生 著
『聖の青春』
083 『女性史研究ほっかいどう』
082 松原 仁 著
『鉄腕アトムは実現できるか?』
081 沢木耕太郎 著
『沢木耕太郎ノンフィクション4 オン・ザ・ボーダー』

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