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<86> 池澤夏樹 著 『静かな大地』
『静かな大地』池澤夏樹 著

『静かな大地』
池澤夏樹 著
 朝日新聞社 刊
 2003年9月発行
 本体 2,300円
ISBN4-02-257873-4

 
◎開拓者とアイヌ民族が様々な出会いを生きた大地の物語

 本書は、北海道にゆかりの深い著者・池澤夏樹が、初めて本格的に北海道をテーマに描いた小説である。
 池澤は作家・福永武彦の息子として、帯広に生まれ、6歳まで北海道ですごした。
 詩人でもあった母の父は帯広でマッチ工場を経営しており、母方の曾祖父たちは、明治の初めに淡路島から北海道に入植した開拓者だった。池澤は幼少のころから、一族の開拓時代の物語を聞いて育ち、いつかそのことを小説にしようと、心を決めていたという。

 物語は、淡路島から日高管内静内町に入植した、稲田家家臣・宗形三郎と志郎の兄弟をめぐって進んでいく。彼らの生き様を、志郎の娘の由良が伝記にまとめるというエピソードを狂言回しとして、明治の開拓の時代に、和人とアイヌ民族とが共に生きる土地で、どういう生き方が存在したのか、という一点を池澤は描いていく。
 松前藩時代のアイヌへの酷使によって、人口が減り、コタンが消滅した例もあること。口伝えによって伝えられてきた、神謡や物語に見られるアイヌ民族の精神性。開拓使たちがアイヌの自然への知恵によって教えられ、助けられてきたこと。そして、アイヌの娘(実はアイヌの一家が引き取って育てた和人の娘)との結婚を決意する三郎。
 様々なエピソードによって語られていくこの物語は、アイヌ・モ・シリ(人間の静かな大地)と呼ばれた北海道が、多民族・多文化の大地であり、多様性をもった社会が存在していたこと、そして、それが次々と失われていく姿を、100年後の私たちに見せてくれる。それは「近代が失ったもの」だと、池澤はいう。まさにガルシア・マルケスのような第三世界文学に通底するテーマを、北海道が孕んでいるということだろう。

 池澤は、いま沖縄に在住している。
 沖縄もまた日本とは異なる文化が豊かに、濃く存在している土地である。北と南から、新しい価値観と文化が日本を挟撃することを考えると、わくわくするほど楽しい。

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