HOME > 鯨森惣七の「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」vol.13

鯨森惣七の「陽だまりがあれば地球人」より「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」

cuziramori

小樽の地図

ラスト小樽編その13

粉雪まじりの冷たい春風が吹きあげていた。堺町通りとオコバチ川が交差する橋のたもとで、風にあおられた人力車の赤い毛布が、スカートのようにまくれあがっていた。
それをみてキューンとなる、あのときの京都の夜櫻のまぶしさを、愛しいと思っていた記憶が甦る。古い時間の後悔したことばかりが、湧いてくるのはなぜなんだ。
運河に向かうオコバチ川の水面を、ゆったりと泳いでいるカモたちがうらやましかった。こっちはこんなに寒がっているのにさ、お前たちは楽しそうじゃないの。てなこと橋の手すりにカラダをあずけて、寂しくぼやいた。
なんとなく堺町通りを振りかえるようにみていたら、どこかで知った顔のひとが歩いてきた。えーと、誰だっけ……あ、ガラスモザイクのひとだ。アンクハーゼのナギネさんは色ガラスを砕いて絵を描いたり、タイルを砕いて文字を組んだり、なかなかシックでモダンな表現を創りだすひとなんだ。

イラスト「馬」

天井が高く、横柱がガッチリと組み込まれた、古い倉庫のようなカフェの窓側に座った。こぼれ陽が静かにさしていて、ナギネさんの顔を照らしていた。白いニット帽を脱いで、みだれた髪をととのえている指先はしなやかで、美しかった。その指先で細かい作業を丹念に、時間をかけて創りだす作風は、ヨーロッパの中世時代の香りがする。彼女自身も、どこかヨーロッパの海辺を感じさせる色香をもっていた。


―子どもの頃はね、ともだちをテーマにして絵本みたいなもの、作るのが好きだったの。
―そうなんだ。 じゃ鏡なんか、のぞきながらひとり遊びとかやってた?
―そんなこと、してなかった?


すこしキンチョウしてボーっと熱くなると、ドラマッチクなよけいなことを聞いてしまう。わりと人見知りするほうだからさ、ことばが宙に浮いたように、会話をちゃんと繋げられないのだ。


―オレ、ほら目つき悪いから……オレのこと、怖がっている?
―話すと そうでもないよ。
―昔さ 女のひとたちがさ 2メートル以内に近寄ってこないのよ。


てなこと、言ってしまったのだ。

イラスト「カフェ」

カフェを出た。小樽駅に向かう。左手に手宮公園の高台がみえた。
「あのあたりに咲く、櫻が好きなんだ。咲いたらさ、ピクニックしたいね」と、一方的に、思いを伝えていた。ナギネさんはやさしかった、微笑みを返してくれる。そして、雪まじりの曇った空をみていた。
駅前の交差点で別れた。照れていたから振りかえることはできなかった。駅の待ち合い広場の窓ガラスをかざる沢山のランプが、風もないのにきらきらゆれている。眺めているだけで温もりを感じた。小樽の駅に久しぶりに降りたときも、同じような安堵感を持った。
ここは、いつでも、そんな風が流れている。街のいたるところでもそうだった。
売店で「アナタも上手に話せるコツ」、そんなタイトルの本に目がいった。パラパラとめくって、棚にもどした。
ことばのゲー術家には、なれないなーと思った。

《プロフィール》

鯨森惣七(くじらもり・そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。
メールアドレス

このページの先頭へ