HOME > 鯨森惣七の「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」vol.3

鯨森惣七の「陽だまりがあれば地球人 」より「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」

cuziramori

小樽の地図

小樽編その3

フニュラーと大きく曲がる坂を登る。かなり古い木造の建物で、ひと息ついていた。太い柱が黒光りしているので、思わずスリスリ撫ぜまわしてしまった。すると、いつのまにか横に立っていた怪しくないヒトが「どーぞ」と、中に入れようとする。いやいや、撫ぜまわしただけです。ってな顔しても「どーぞ」と、吸い込まれるようにさらわれてしまった。
誰もいない能楽の展示室につれていかれ、専門的なムズカシイことを説明してくれる。うなずくだけでセーいっぱいなのだ。コンニャク頭のボクには、能楽の神秘的な深さはまったくわからなかった。けど、これも伝統のあるりっぱなゲー術なんだと思ッちゃッた。

イラスト「能面と15の春」

外にでた。暑さはあいかわらずギララグァーンと射している。小学校のグランドで野球少年たちが走っていた。その後ろを乾燥した土煙がたちこめ、灼熱の空気がユラユラ舞っていた。少年のひとりが汗だくで足がとまりそうーだった。その時、土煙の中からガンバレコテキ隊が行進してきて、ラッパを鳴らした。少年はうれしそうに両手を水平にひろげて飛行機のように、走りはじめた。
さらに曲がり坂を登りつめると小樽公園に辿り着いた。海が観えた。風が吹いてきて、ミドリの実がころがってきた。上をみあげると、太陽に抱かれて輝いている栗の実が、いっぱい笑っていた。

イラスト「野球少年とガンバレコテキ隊」

おじさんと散歩している赤毛の犬が、水飲み台の蛇口をペロペロ舐めているのをみていたら、ボクも冷たいコーヒーが飲みたくなった。海と森に包まれるようにポツンとある、ジンギスカンの見晴らし亭に入った。お客さんは誰もいなくて静かだった。奥の窓側のテーブルで新聞をひろげているおばーさんが居るだけだった。コーヒーありますか、と聞いてみた。「はいはい。アイスかい。ホットかい」と聞かれたので、アイスです。と言うと、なんだか、ガッカリした顔をしたので、やっぱりホットがいいな、暑いからホットがいいな。と、ウソを言ってしまいました。おばーさんはうれしそうに、手動式ミルのハンドルをゆっくりと回し、ギーギリリゴーと豆を弾きはじめた。上品な香ばしいカオリが店いっぱいにひろがった。
「今日はアンタがはじめてのお客さんだよ。アンタが生まれる前から、こーして豆を弾いてきたんだよー」と含み笑いをみせた。ギーギリリゴーと豆を砕く音が、熟成されたやさしいワルツのように聞こえてきた。ミルを楽器のように奏でてしまう技は、凄いことだと思ってしまった。

イラスト「ソフトクリームと犬とおばーさん」

窓越しの遠くの海を観ながら、おばーさんは昔話を二時間もしてしまっていた。陽射しは西に傾きはじめていた。ボクは腰をあげた。道なりに坂を下っていくと、コーヒーワルツが追いかけてきてボクにまとわりつく。なんだかスキップのような歩き方になってしまった。少年たちは、もーグランドにはいなかった。時計回りにぐるーり下っていくと、ぐるぐる巻き上げたソフトクリームのカンバンを見つけてしまった。夕方のアイスは、冷たくて気持ちいいのだ。

(つづく)

《プロフィール》

鯨森惣七(くじらもり・そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。
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