HOME > 鯨森惣七の「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」vol.2

鯨森惣七の「陽だまりがあれば地球人 」より「コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。」

cuziramori

小樽の地図

小樽編その2

住宅街の路地をトボトボ歩いていると、妙なものを発見した。ひょろーり流れている小さな川をまたいで、カマボコ型の建物。なんじゃコレはと近づいた。妙見市場、不思議な魅力をただよわせているじゃーないか。覗いてみようじゃーないか。 そのまえに、おしっこ。市場の外にあるトイレの入口を潜る。おーなんじゃの、昭和の匂いがする。かなり古いタイプのものであって、コンクリート壁に向かって、おっしこを跳ばす方式なわけ。ようするに草っ原で立小便する開放感があって自由なのです。鼻歌がでそうな感覚ってゲー術だよな。

イラスト「古い扇風機」

と、思っていたら右手の個室から出てきた御婦人、中年よりじゃっかんういういしいお方。前かがみで白いズボンを膝あたりで引っ掛けたまま、アヒルのように前進してきて、アラーって悲鳴みたいなものをあげながら、ズボンもあげた。ボクは出来るだけ小窓の外の風景を観ていた。市場の中は、なだらかな下り坂の通路を挟んで、両側に露天のように店が並んでいる。駅前の三角市場のように観光客がいる風でもないので、この川を囲むヒトたちの生活市場なんだろうと思えた。

イラスト「アヒルと犬」

通路のところどころに、いろんなタイプの寄せ集めの古い椅子があり、色あせて郷愁がにじむ大きなソファーに腰をおろした。醤油と昆布だしの合わさった香りが、隣の揚げ物屋からふぅあっと流れてきて、誘惑するのだ。腰をあげて覗いてみると、おでんがグツグツ煮詰まっていて、たまらんのです。とーふと玉子と大根を持って外に出た。なんだか外の風景につつまれて食べたいと思った。

イラスト「カマボコとゲー人とカモメ」

昼下がりの太陽は、あいかわらず真夏の熱をジワジワ投げかけていて、気の遠くなるような暑さだった。ちょうど川の土手にサクラの木がひろがっていて、日陰のなかに長椅子をみつけた。少し涼んでから、うっすら醤油色に染みた豆腐を割って舌にのせた。濃口醤油の香りと甘味がひろがってきて、豆のやわらかい味が重なる。口のなかでホロホロと溶けて、さらに昆布と煮干しのコクが追いかけてくる。コレは旨い。ひさびさの深く感動する旨さだった。このおでんを造った、あのお母さんは天才だわ。市場のピカソだ。てなこと思ってしまった。

イラスト「ママとトーフ」

長椅子の下を見ると、サクラの葉影がゆれている合間で、玉子の黄身をくわえている蟻がいた。キョロキョロしながら、女王様の待つ草むらにゲー術の味を運んでいった。

(つづく)

《プロフィール》

鯨森惣七(くじらもり・そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。
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