買いだめのススメ

買いだめのススメ

黒島の道路わきにある津波岩。岩の上から木が生えてきて盆栽のようになっている。1771年に宮古・八重山諸島を襲った大津波で移動してきたとされる。八重山では「津波岩」が方々で見られる

 3月11日に東北で大地震が発生した時、私は屋外で仕事をしていた。携帯に津波を知らせるメールが届き、職場に戻ってテレビをつけたら東北で大地震が起こり、間もなく大きな津波が来ると連呼していた。
 なぜ、携帯に津波を知らせるメールが来たかというと、以前から、本土のマスコミに勤務する知人に津波に関する情報を送ってもらうようにお願いしていたからである。その知人からのお知らせメールは、ニュース速報とほぼ同時の早さで届き、大変助かっている。
 そのようなお願いをどうしてしているのかというと、職業がらウミガメの産卵調査などで海岸線を歩くことが多い上、私の暮らす黒島は平坦な島で最高標高はわずか13メートルしかないため、津波には敏感にならざるを得ないのである。
 東北の地震の影響で黒島にも津波注意報が出ており、私の職場である黒島研究所を見学に来た観光客に「今、津波注意報が出ています。警報に変わると船が出ませんので日帰りの方は今すぐ港に行ったほうがいいですよ」と呼び掛けた。案の定、津波注意報は津波警報となり、その後の船は欠航となった。
 そして、翌日も津波警報はつづいていた。その日に帰る予定の観光客の中にはかなり慌てている人もいた。励ましのつもりで「私も今日は那覇へ出張する予定だったんです」と言ったら、「どうやって行くんですか?」と聞いてきたので、「船が出ないんですから行けないですよ。自然には勝てません。あきらめましょ」と言うと怒っていた。怒っても仕方のないことなのに。結局は午後から警報が解除となり、私は那覇へ行けてしまったが……。
 ニュースの報じる帰宅困難者の問題は理解に苦しんだ。なぜ無理して帰ろうとするのだろうか。都会で暮らす人には余裕と冷静さが必要だと感じた。後日のスーパーの棚が空っぽになっている買い占め騒動を見てさらにそう感じた。
 今、私の住んでいる黒島が突然孤立し、停電になっても1、2週間は全く平気で、頑張れば1、2カ月はしのげるほど食糧がある。外には囲炉裏やかまども造ってあるのでガスも不要である。
 黒島にある唯一の商店では棚が空っぽになるのは日常茶飯事だ。その主な原因は仕入れをサボっていることである。そして、毎年のように襲来する台風とそれに伴う船の欠航……。備蓄の習慣が自然と身について当然である。
 いつでも簡単に買い物ができる都会に比べ、ちょっと不便な地域のほうが食糧の備蓄はしっかりしているのかもしれない。ちなみに食糧の備蓄は金欠の時にも有効である。

プロフィール

若月 元樹(わかつき もとき)
1974年広島県生まれ。沖縄国際大学大学院地域文化研究科修了。高校まで広島で過ごした後、沖縄の祖母の家へ移り住む。大学卒業後、そのまま沖縄でサラリーマンになったが、遊び足りなくて退職。大学院へ行ったはいいが、みんなまじめに研究していて衝撃を受ける。現在は八重山諸島の黒島にあるNPO法人日本ウミガメ協議会の附属研究所・黒島研究所でウミガメや島の人々らと戯れている。
・黒島研究所

前へ | 新着順一覧 | 次へ

この記事を知らせる

ブックマークする