悪役にされているオニヒトデ

悪役にされているオニヒトデ

vol.9

2010.12

近くの海で見かけたオニヒトデ。彼らは外来種でもなく、サンゴ礁の住人にすぎない。

 私はプロレスが好きである。小学生のころにはゴールデンタイムにプロレスが放送されていた。放送翌日の学校は男子児童による技の掛け合いでにぎやかになった。圧倒的人気を誇るアントニオ猪木は私の友人たちの間でも大人気だった。しかし、なぜか私はあまり猪木を好きにはなれなかった。むしろ人気者の猪木に真っ向から対立していた長州力が、私のお気に入りで、長州の決め技であるサソリ固めは当然、プロレスごっこの時の私の必殺技となっていた。
 沖縄では環境保護の象徴的な生物としてサンゴが挙げられる。そのサンゴを食べるオニヒトデはプロレス流に言うとヒール(悪役)となってしまっている。しかし、私はサンゴよりもオニヒトデを応援してしまいたくなる。彼らは必死に生きて子孫を増やしているだけなのに、これまたプロレス流に言うと、「サンゴの海を守る」というベビーフェイス(善玉)らに積極的に駆除されてしまったりする。大好物がたまたま人気者のサンゴであったという不幸な食性である。猪木よりも長州を支持する私の性格も背景にあろうが、オニヒトデは悪くないと私は思う。
 世間はもっと冷静にならなければならない。ダイビングをしに来た観光客から、「ダイビング船の船長から、俺はいつもオニヒトデを自主的に駆除している云々と、長々と愚痴を聞かされてしんどかった」という話を聞いた。これを農家に置き換えると、「俺はいつも畑の雑草を取り除いたり、害虫を追っ払っている」と威張っているようなものだと私には聞こえる。
 実際、この船長のようにオニヒトデを駆除する自分が環境を守っている、と自負している人もいるだろう。そんな人はそれで良いと思う。「サンゴ礁の海を守る」という大義名分で、オニヒトデ駆除費用の予算を行政に求める声をよく聞くが、本当にオニヒトデが厄介者であれば、その駆除に税金から予算を付けることはご法度である。オニヒトデの駆除を仕事にしてはならない。オニヒトデが減ると困る人が増えるという構図を作ることは本末転倒であるからである。
 オニヒトデによって食べつくされたサンゴ礁も、海が健全であればまた再生する。しかし、自然に再生することを待てない人たちは、「サンゴを移植」という手段で自然の再生サイクルに介入して気持ちよくなっている。
 現在のプロレスは面白くない。長州のような男がいたから、猪木は輝けた。昔は外国人選手もハンセンやホーガン、アンドレやブッチャー、タイガー・ジェット・シンなどなど、挙げればきりがないし、特にプロレスを見なかった人でも名前は聞いたことがあるのではないかと思うほど、多様なレスラーが次々と登場していた。
 サンゴ礁の海も同じだ。サンゴを食べるオニヒトデもたまに見かけるのが多様性に富んだサンゴ礁の海であり、自然な姿なのである。

プロフィール

若月 元樹(わかつき もとき)
1974年広島県生まれ。沖縄国際大学大学院地域文化研究科修了。高校まで広島で過ごした後、沖縄の祖母の家へ移り住む。大学卒業後、そのまま沖縄でサラリーマンになったが、遊び足りなくて退職。大学院へ行ったはいいが、みんなまじめに研究していて衝撃を受ける。現在は八重山諸島の黒島にあるNPO法人日本ウミガメ協議会の附属研究所・黒島研究所でウミガメや島の人々らと戯れている。
・黒島研究所

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