あの世にお金を持ってゆく日

あの世にお金を持ってゆく日

vol.5

2010.08

死んだ人から見れば札束の山に見えるウチカビの販売風景

 沖縄のお盆は旧暦で実施される。今年は8月22日から24日までが旧暦のお盆である。
 旧盆初日は「ウンケー」と呼ばれる。「お迎え」という意味である。沖縄では炊き込みご飯のような食べ物のことを「ジューシー」と呼ぶが、旧盆初日は仏壇にその「ジューシー」をお供えするので、「ウンケージューシー」とも呼ばれる。
 お盆の期間中は、仏壇のある親せきの家をまわって、お線香をあげたり、お中元を置いてくる。仏壇の前はお中元が山積みになる。自分の親にもお中元を持ってゆく習慣があるので、子どもの多い家はお中元も多い。そのお中元の定番はお米である。
 旧盆前になると沖縄のスーパーや商店街では、お中元と旧盆グッズが幅を利かせるようになる。ロウソクやお線香、ウチカビ(あの世で使うお金)など、普段は隅のほうで売られている商品が、メインの売り場に特設コーナーが設けられて並べられるほか、サトウキビなど旧盆の時にしか販売されない品も登場する。そしてバナナやパインなど、仏壇に供える果物も大量に並ぶ。特にバナナやパインは、沖縄でも栽培されているが供給量が間に合わず、フィリピンあたりからそれらを載せた船が旧盆のために入港するほどである。亡くなった祖母と那覇で暮らしていたころ、「島バナナでなければ駄目」と言われ、苦労して沖縄産バナナを探し回った思い出がある。

普段はスーパーでは
見かけないサトウキビ

 旧盆のクライマックスは「ウークイ」と呼ばれる最終日である。「ウークイ」は「御送り」を意味する。その名の通り、遊びに来た先祖の霊をお見送りする日で、その時に欠かせないのが先ほど紹介したサトウキビとウチカビである。
 サトウキビ2本を仏壇に供える理由は、先祖の霊があの世に戻る時に、1本は杖に、もう1本はかつぎ棒にしてお供え物を持って帰るために必要なのだそうである。
 ウチカビは、仏壇から玄関へお供え物を移していよいよ先祖を見送るという時に、玄関内で燃やすものである。燃やすことによってお金を持たせることになるそうだ。旧盆とは祖先が年に一度、お供え物とお金を受け取る、仕入れのような行事なのかもしれない。
 私の祖母の話によると、昔は身内にひとりぐらいは「見える」人がいて、先祖の足跡がぺたぺたつくのが見えていたそうだ。「見える」その人を先頭に、集落のはずれまでついて行って見送り、そのあとに爆竹を鳴らしたらしい。
 知人の話によると、「ウチカビなんて意味がない」と言って燃やしてこなかった母親が亡くなり、その娘が遺志を継いで母親の見送りのときもウチカビを燃やさなかったところ、「お金がなくて困っている」と枕元に立ったというのである。あの世でもお金は大事なようである。

プロフィール

若月 元樹(わかつき もとき)
1974年広島県生まれ。沖縄国際大学大学院地域文化研究科修了。高校まで広島で過ごした後、沖縄の祖母の家へ移り住む。大学卒業後、そのまま沖縄でサラリーマンになったが、遊び足りなくて退職。大学院へ行ったはいいが、みんなまじめに研究していて衝撃を受ける。現在は八重山諸島の黒島にあるNPO法人日本ウミガメ協議会の附属研究所・黒島研究所でウミガメや島の人々らと戯れている。
・黒島研究所

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