「ニシ」は「北」と書くか「西」と書くか

「ニシ」は「北」と書くか「西」と書くか

vol.2

2010.05

「ニシ」は「北」と書くか「西」と書くか

若月元樹の「OKINAWATCH(おきなわっち)」 プロフィール

波照間島のニシハマ

 私の暮らす黒島には「西の浜(ニシノハマ)」という砂浜がある。黒島からもう少し南に位置し、有人島では日本最南端となる波照間島(はてるまじま)には「ニシハマ」という砂浜が存在する。この波照間の「ニシハマ」は漢字で書くと「北浜」となる。その名の通り波照間島の北に位置する砂浜である。また、那覇から西に位置する慶良間諸島の阿嘉島(あかじま)という所にも「ニシハマ」という砂浜があり、やはり漢字にすると「北浜」となり、阿嘉島の東側にあるが、集落から見れば北側に位置する。沖縄では「北」は「ニシ」とも読まれ、「西」は「イリ」とも読まれるのである。
 黒島を訪れる観光客は同じ八重山諸島にある波照間島の「ニシハマ」を知っている人が多く、漢字で「北浜」と書かれることも知っている場合が多い。そこで、黒島の「西の浜」のことも「ニシハマ」と呼ぶ観光客も多く、「ニシハマに行くには……」という尋ねかたをよくする。そこでは「西の浜へは……」とさりげなく「ニシノハマ」という発音を強調して道順を教えるが、わざわざ訂正まではしない。
 たまに沖縄の常連を気取って、ビギナー同行者の前で「西の浜の“西”って本当は“北”ですよね」とツウぶって質問してくる人がいる。「黒島の西の浜は“西”で正解です。かつての黒島方言では“イリンパマ”と呼ぶので確実です」と答える。さすがに沖縄通ぶっているだけあり、「西」を「イリ」と読むことを知っているのでしょんぼりする。
 実はこのやり取りは私の職場である黒島研究所を見学に来る観光客との間によくあることで、私なりにはなるべく聞いてきた人の自尊心を傷つけない言い方をしているつもりではある。しかし、同様のやりとりで言い合いをしてしまったことがある。

ニシハマにある看板

 ある日の昼、私が島内の飲食店に入った時のことだった。中に居た観光客が窓から「黒島研究所」と書かれた車から降りてきた私を見ていたようで、店に入るなり「研究所の人?」と話しかけられた。「だれだお前は」と言いたい気持ちを押さえていたところ、さらに「西の浜って正確には北の浜って書くんでしょ」と言ってきた。あまり機嫌のよくなかった私は、思わず「沖縄通ぶっている人はよくそうおっしゃいますが、残念ながら黒島は西の浜です」と嫌味たっぷりに答えてしまった。すると観光客は、「紛らわしいじゃないか」と言ってきたので、「あんたが勝手に混同してるだけでしょ」と大人げなく応戦してしまった。すると、「観光地としてこの島は自覚がない。改善すべきだ」と相変わらず上から目線で文句を言ってくるので、「大きなお世話だ」と言い返すと、相手は何も言ってこなくなった。
 至福の時であるはずのランチタイム。ムカついていたので味わって食べられなかったが、一番の被害者は客同士の言い合いで店内をイヤな空気にされてしまった飲食店であろう。

プロフィール

若月 元樹(わかつき もとき)
1974年広島県生まれ。沖縄国際大学大学院地域文化研究科修了。高校まで広島で過ごした後、沖縄の祖母の家へ移り住む。大学卒業後、そのまま沖縄でサラリーマンになったが、遊び足りなくて退職。大学院へ行ったはいいが、みんなまじめに研究していて衝撃を受ける。現在は八重山諸島の黒島にあるNPO法人日本ウミガメ協議会の附属研究所・黒島研究所でウミガメや島の人々らと戯れている。
・黒島研究所

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