恐怖の国際都市上海

恐怖の国際都市上海

 東日本大震災の発生から1カ月以上が過ぎた。原発事故の問題もあり、なかなか落ち着きを見せない日本の状況は、中国中央テレビでも伝えられている。経済的にも力をつけた同テレビ局は、日本のテレビニュースを転電するだけでなく、独自取材も織り交ぜてかなりの量を報道している。
 逆に中国にいる日本メディアは開店休業状態だ。ここ数週間どんなに中国の情報を発信しても、日本での扱いは小さい。震災前は中国が絡むニュースが圧倒的に多かったが、今はそれどころではないといった感じだ。
 地震の陰に隠れてしまったニュースと言えば、先日酒井法子が北京にやってきたことだ。昨年あれだけ世間をにぎわせた人なのに、たいした報道はされなかった。まあ、本当はこれぐらいのニュース価値だった、ということなのだろう。
 酒井法子と比べるような質のニュースではないが、中国「ジャスミン革命」も影を潜めている。チュニジアやエジプトに端を発した革命は中国でもネットを通じて呼びかけられ、日曜日の繁華街に若者や野次馬が集まったが、当局の厳しい警備が功を奏し、最近ではデモを起こそうという若者がいたという話は聞かない。しかし先日、キリスト教徒たちが北京の繁華街でデモを起こそうと集結し、拘束されるなど緊張は今もつづいている。
 私も先月、当局がいかに反体制デモに神経をとがらせているのかを感じる出来事があった。私は上海で、この呼びかけがあった集合場所近くの5星ホテルに泊まっていた。

Photography:Minoru Iwasaki

村の教会で

 朝8時、部屋の電話が鳴り、ホテルのフロントから「あなたの部屋の空調が壊れた、部屋を移ってくれないか」とのこと。私は「エアコン使わないので」と電話を切り、また眠りに着いた。すると数十分後、部屋の電気がすべて消える。そして、外からドアをノックする音が「ガンガン」と響く。ドアの隙間から「どなたですか」と聞くと「ホテルのものだが、あなたの部屋の電気系統が壊れた、部屋を移ってくれないと他の客にも迷惑をかける」と言う。数名の男がドアの隙間から見える。私は「寝ているから修理してもらって構わない」とドアを開ける。4、5人の男たちが部屋に入ってきて電灯を外したり、机を動かしたりしはじめた。しまいには「あなたの寝ているベッドも動かさなければ」と、私はパンツのまま浴室に移り、修理の状況を見守った。しかし私は目が覚めるにつれて、あまりにもひどい仕打ちではないかと思いはじめ、荒らされた部屋を撮影した。
 すると男の一人が「お前は私の肖像権を侵害した」と警察に通報したのだった。服をまとった私は警察の前で撮影した写真を消去し、とりあえずロビーに下りた。今度は出入国管理局の警察が現れ「この地区での取材、撮影には当局の許可が必要です」と北京五輪開催時に改正された取材規制をあっさり否定した。
 朝飯でも食べようとホテルを出ると、私服の警察が6人後をつけてくる。スターバックスに入ると、私の隣に膝をつけるように私服警察も座る。タクシーを拾おうとすると、私を羽交い絞めにし、タクシーの運転手に客を乗せるなと指示する。今まで色々な取材をしてきたがここまで徹底的に妨害してくるのは、ひさしぶりだ。
 ホテルの部屋に戻ると、修理工が「修理は終わった」と言った。しかし、後ろにいたホテルの関係者が慌てて「まだ部屋は完全になおっていない」と言う。
 「もしもこの修理が公安からの指示だと言うことを認めるなら他の部屋に移る」と私が言うと、関係者は小さくうなずくのだった。
 国際都市上海でこのような目に遭うと、一体中国はどこに向かってゆくのだろうと不安にならずにはいられないのであった。


終わり

プロフィール

岩崎 稔(いわさき みのる)
写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。2010年度新聞協会賞受賞。
・Minoru Iwasaki Photography

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