チベット族自治区で地震報道を知る

チベット族自治区で地震報道を知る

vol.12

2011.03

チベット族自治区で地震報道を知る

岩崎稔の「ホントノシュンカン IN CHINA」 プロフィール

 チベット暴動から3年目になるということで、青海省黄南チベット族自治州同仁の寺院でラマ僧を取材していた。 一緒にいた記者の携帯に情報が入り、日本の東北地方でマグニチュード8.9の地震が起きたことが知らされる。早速、東京に住む妻に連絡すると「津波警報が発令されている」と話したところで余震が来ているからと電話を切られた。どうやら無事の様だが、不安は募る。
 神奈川県の実家には電話が通じない。インターネットで被害状況を見る限り、同県に大きな被害はなさそうだ。その他、気になる知人らに電話をするがだれにも通じない。どうやら地震の影響で携帯電話はつながりにくくなっているようだ。
 取材はほとんど手につかず、刻一刻と更新されるニュースサイトに釘付けになる。
 とりあえず街中のレストランに入ると店員がインターネットで地震の記事を見ていた。パソコンを横からのぞき、浸水した家屋の写真を見て驚く。いったい何が日本で起きているのだろう。
 同仁で宿を探すが「外国人は泊めてはいけない」と当局から通報を受けている、と断れる。やはり敏感な時期なので当局は警戒しているようだ。夕方、4時間かけて甘粛省の夏河を目指す。深夜だったため途中に検問もなく、無事夏河に到着した。ホテルについてテレビをつけると中国中央テレビのニュース専門チャンネルでは、NHKがとらえた東北地方の津波の様子を何度も繰り返し放送していた。今まで四川大地震、青海大地震、甘粛省の土砂災害などを取材してきたが、街が津波に飲み込まれる映像には言葉も出ない。想像をはるかに超えた被害にただただ驚く。

Photography:Minoru Iwasaki

祈り

 夜になり家族や友人の安否が確認できた。パソコンをつけたままインターネットラジオから流れる地震の被害を聞く。原子力発電所の被害が深刻のようだ。改めてラジオから流れる報道に不安が膨らむ。
 翌日、3年前にラマ僧らによって大きな抗議行動があった夏河のチベット寺院で行われた法会を取材する。千人以上のチベット族が集まり、それを取り巻くように私服の警察官らが監視する。取材を終え、5時間かけて蘭州空港へ向かう。
 空港では震災の様子が映し出されるテレビに人だかりができている。機内で中国の新聞を開き、大きく「日本人は大地震が起きても秩序よく対応している」と書かれた見出しの記事に目を通す。北京の自宅に到着して、インターネットで日本のテレビを見る。どれも緊急番組ばかりだ。日本が緊急事態に直面している事に気づかされる。
 翌日、北京で呼びかけのあった「ジャスミン革命」の取材に向かう。警察や私服警察が多い以外、繁華街はいたって平常だ。
 夜、東京に住むフランス人の友人から電話が入る。
 「大使館から関東地区を離れるようにと連絡が入った、関西の知り合いの家を紹介してもらえないか」
 事態は混乱に向かっているのだろうか……不安に駆られながら親戚を紹介する。
 深夜、妻に電話をしてみる。眠たそうな声で「あっそ、何かあったら私の事はあきらめて」と素っ気ない冗談を放つ。どうか豆腐の角に頭をぶつけないようにと願う。
 未曾有の大惨事、海外に住む私には何もできない。ただ淡々と目の前の仕事をこなしてゆくだけだ。海外にいると状況や雰囲気が分からない分不安が募る。
  亡くなった方へのご冥福と、被災された方のお見舞いを申し上げたい。


終わり

プロフィール

岩崎 稔(いわさき みのる)
写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。2010年度新聞協会賞受賞。
・Minoru Iwasaki Photography

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