広場の旅

 最近、半端じゃない頻度で出張に行っている。今までも1カ月に3回から4回は地方を回っていたのだが、手帳をめくり10月から今までに行った都市を数えると、計12カ所30日にもおよぶ。
 私は旅をすることが大好きだった。学生のころはチベット自治区やインド、ネパール、東南アジア、ヨーロッパなどをバックパックを背負いながらよく旅をした。あのころは社会人になったらきっと旅などもうできないだろうと思い、各地を回りながら気合を入れて見聞を広めた。あれから10年と少し、まさか昔にもましてこんなにハードにあちらこちらを旅するとは思いもよらなかった。10年後、このまま旅をしつづけているのかどうか、少し不安だ。
 近ごろどうしてこんなに出張が増えたかと言うと、各地で予告される反日デモのせいだ。インターネットというものは恐ろしい。「●月●日●広場に集まろう。日本製品の不買運動をしよう!」などとだれかが書きこむと、それが勝手に独り歩きして、本当に人が集まってしまう。予告があると警戒しないわけにはいかず、私は各地の広場を転々と回って取材しているわけだ。先月からすでに6カ所の広場の取材をしてきたが、広場も各地で意外と特色がある。日本で言う広場と、中国の広場はほんの少しニュアンスが違うような気がする。中国ではどんな都市でも中心に広場がある。その周りに政府の関連施設や毛沢東の彫刻などがある。日本では市役所付近にある公園などに当たるのだろうか。

Photography:Minoru Iwasaki

広州の繁華街

 もちろん中国で一番有名な広場は北京にある「天安門広場」だろう。長方形のだだっ広い敷地をきれいに舗装し、中心には毛沢東記念館と英雄記念碑、北側に国旗が掲げられている。広場の進化型は済南の「泉城広場」だろう。南側には二階建ての見晴らし台があり、中心には地下に下りる階段と小さな低層の広場があり、その周りにはマクドナルドやショッピングセンターがある。北側には緑地帯と噴水、そして国旗が掲げられている。こういった広場でデモの取材をするのは意外と至難の業だ。あまりにも広場が大きすぎて全貌を把握することができない。利点はぐるぐる広場を回っていても意外と飽きないことだ。
 今回、困難を極めたのが寧夏回族自治区の銀川市の広場だ。市中心部には立派な広場があるのだが、予告は体育場の横の小さな広場。朝、広場に向かうと、警備に当たる警察官や私服警官でほぼ埋め尽くされている。しょうがないので隣接する公園から様子をうかがうことにした。緊迫する広場とは打って変わって、公園の中は平穏そのものだ。老人が鳥かごを持って散歩し、カップルがベンチで愛を語らう。私は昇ってきた太陽の光に当たりながら緊迫した広場を眺めていた。すると突然、後ろから数人の警察官が現れ、即座に私のカメラを奪おうとした。そして目の前にパトカーが止まり、押し込まれるように連行されたのだった。平穏な時間が一転し、派出所での取り調べがはじまる。
 「なにをしていたんだ!」との警察の問いに「公園のベンチで日光に当たっていました」と答える私。待たされること1時間、週末だというのに休みの日本語教師を探してきて、通訳に当たらせる。年配の女性は「このような通訳ははじめてなので大変緊張しています」と前置きがある。「私は別に凶悪犯ではないので緊張しなくていいですよ」などと言うが、怒鳴りつけるような警察の質問をふるえながらオブラートに包んで私に伝えてくれる。結局、広場にはもう近寄らないことを約束して、派出所を出たのであった。
 いったい私の広場の旅はいつ終わるのだろう……。


終わり

プロフィール

岩崎 稔(いわさき みのる)
写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。2010年度新聞協会賞受賞。
・Minoru Iwasaki Photography

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