つぶやき封じ?

つぶやき封じ?

 北朝鮮と韓国の緊迫した様子がこちらでも連日、報道されている。韓国政府が南北関係の断絶を発表した、という例のニュースも中国では日本より数時間早くネットニュースに流れた。一大事だ。楽天的なわが姑までが事態をつかむと「2012年、本当に終わるかもね」とつぶやくほどの大ニュースである。今こそ中国のニュースサイトに散在する「つぶやき」の数々を収録すべき時なのだ。ところが、である。鼻息荒く、国営大手ニュースサイト「新浪網」の該当ページを開いたところで、愕然とした。同件のニュースに関するコメント(中国語は「評論(ピンルン)」)欄がすべて閉鎖されているのである。
 いったい、どういうことなのか? よくよく調べてみると、昨年から北朝鮮関連の記事はすべてのコメント欄が閉鎖されているということがわかった。そして、同じようにこの事態に困惑している人はいるらしく、日本の「Yahoo知恵袋」に相当する中国の掲示板サイト「百度知道」にこんな質問を見つけた。
 「質問……朝鮮関連のニュースのコメント欄が最近、閉鎖されています。なぜなのですか? 補足……数年後、朝鮮人民は心の中で私たち中国人を恨むのではないのでしょうか。もしあの国の独裁政権を支持していなかったら、朝鮮人民の苦しみはいくらかマシだったかもしれない。これほど多くの人が餓死せずにすんだかもしれません」
 「中国が」とか「政府が」という主語が一切出てこない、しかしかなり鋭いカキコミだ。この質問に対し、ベストアンサーに選ばれた回答はこれである。
 「回答……現在の朝鮮は改革開放前の大陸です。現在、大陸の制度は北朝鮮に類似しており、意識形態でいえば瓜二つです。お上は朝鮮を西洋思想牽制のための一つの盾にしているわけですから、(コメント欄で)朝鮮の悪口を言うことはお上の悪口を言っていることと同じ。だから、お上はニュースサイトにある朝鮮関連ニュースのコメント欄を閉鎖したわけです。あなたの補足はとてもいいところを突いていますね」
 こうした見方は日本や世界で一般的だし、中国でも多くの人が感じていることではある。しかし、かの国と「瓜二つ」とはいかないまでもそれなりの規制がある中国でこうした会話を見つけると、やはりなんだか力づけられる。これまであまり活用してこなかったが、「百度知道」、あなどるべからずだ。

自宅の窓を修理する人(復興西路)

 話を「コメント欄」に戻す。つまりニュースはナーバスであるほどコメント欄が削除される可能性が高い。逆に言えばコメント欄の有無でそのニュースの敏感度、扱いにくさがわかるということだ。ちなみに昨年、麻生太郎首相(当時)が来中した時も閉鎖されたという。反日愛国青年たちの過激な発言による炎上を恐れたものらしい。
 そうしてコメント欄の有無と記事内容の関係をさらに調べていると、あるネットユーザーが作成したリストを見つけた。その名も「2010年第一四半期分 コメント欄が閉鎖、もしくは記事タイトルが削除されたヘッドラインニュース」だ。冒頭にはこうある。
 「本来は年末を待ってまとめるつもりでした。不動産、有害ワクチン、人民元切り上げ、遺伝子組み換え食品、強制立ち退き、医療安全などの問題には背筋が凍り、失望するばかりです。この国に対して、私はとうとう自信をなくしてしまいました」
 つづく3カ月分、計28本のニュースリストは圧巻である。日付、ニュースの見出しとURL、記事の最終処置(「削除」や「コメント欄閉鎖」)、それに対する自分の嘆きなどがつづられている。以下はその一部だ。
 「1月21日 “貧富の差が広がる 独占企業の給与は平均額の10倍以上”」
 「3月16日 “遺伝子組み換えイネの安全認可 学者100人が連名で取り消しを求める”……タイトルを見つけた時点で記事すでに削除」
 「3月26日 “山西省がワクチンの違法入札を認める わいろで車購入の役人も”……(前半略)何を言っても日本は食品、衛生の安全において文句のつけどころがない。日本人は残忍なイメージだが、いくら残忍でも金のために同胞の健康を害しはしない!」……
 読者がつぶやくことさえ許されないニュースの数々。それをわざわざリストにまとめ、一人ボヤくネットユーザー。もしかしたら中国のニュースは想像以上に奥深いのかもしれない。「つぶやき人民月報」、早くも前途多難である。

プロフィール

上林 早苗(かんばやし さなえ)
1978年生まれ、奈良出身。
京都外国語大学中国語学科卒業。上海在住11年目。
中国人の夫と姑との3人暮らし。

前へ | 新着順一覧 | 次へ

この記事を知らせる

ブックマークする