中西圭三さんインタビュー

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NEW INTERVIEW

「美しい唄」が集う場所で奏でられる「過去・現在・未来」

中西圭三さん

●PROFILE

1991年デビュー。同年ダンスユニットZOOに提供した「Choo Choo Train」がミリオンセラーの大ヒット。92年には「Woman」で日本レコード大賞作曲賞を受賞。NHK紅白歌合戦にも初出場。
94年からはICE BOXとしての活動も行う。2005年からNHK「おかあさんといっしょ」に「ぼよよん行進曲」「まんまるスマイル」などの楽曲提供も行っている。

 2009年7月、世界で活躍する彫刻家・安田侃さんの作品が鎮座しているアルテピアッツァ美唄で行われた「美しい唄」コンサート。今年は7月11日・日曜日に「美しい唄」Special ~YESTERDAY,TODAY AND TOMORROW~として行われます。そのきっかけは音楽が取り持った縁でした。
 「偶然通りかかった美唄(びばい)という街の地名が凄く気に入っているんですよね」
 「美唄で頑張っているミュージシャンがいますよ」
 「是非とも美唄で歌ってもらいたいんです」
 これらは全て別々の人間が発した言葉なのですが、いつのまにかこの言葉たちがリンクし、「美しい唄」を完成させました。その主役となったのがシンガーソングライター・中西圭三さん。個人的には5年ぶりの再会となります。
 「Woman」「眠れぬ想い」など数々のヒット曲を持ち、紅白歌合戦にも出場経験のある中西さんが、なぜ美唄に惹かれ、美唄で歌いたいと思ったのか、そして来年20周年を迎えるアーティストとしての「音楽とは何か」を伺いました。

(聴き手・橋場了吾(【SAPPORO MUSIC NAKED】編集長)

●自分が「ここで歌いたい」と思った土地の人が僕に気持ちを伝えてくれた……全力で応えたいと思いましたね。

 ―大変ご無沙汰しておりました。5年前に何気なくお話していたことがいつの間にか大きなイベントになりましたね。

 美唄を知ったきっかけは、5年ほど前に北海道で行われたイベントが最初だったんですよね。
 偶然通りかかった美唄という地名が素晴らしいなと思ったんです。その時に「せっかく美唄に来たんだから」ということでアルテピアッツァ美唄にも連れて行ってもらったんですよ。
 で、時を同じくしてL.o.t.u.s (中西さんと盟友・池田聡さん、ギタリスト・赤崎郁洋さんのユニット)でツアーを回っている時に「この間、美唄というところに行ったんですが、いつかアルテピアッツァ美唄で『美しい唄』コンサートをやりたいんですよね」と話していたんです。その話が池田さんを通じて周りの方に伝わって、岸くん(岸孝志さん/美唄在住のユニット“ドレッドノート”のギタリスト・「美しい唄」コンサートの企画も担当)との出会いもあって。そういう流れですね。

※2004年~2005年当時、筆者はSTVラジオで「池田聡のアコースティックウェイブ」という番組を担当。中西さんにゲストに出ていただいた時にこの話を伺っていました。その時「美唄在住のアーティスト」ということで岸さんの名前を紹介していた次第です。

 ―私が池田さんと番組をやっていたのが2005年6月までですから……凄い短期間に縁が繋がったんですね。

 凄いですよね(笑)。岸くんが最初に「美唄でコンサートをやってほしい」と手を挙げてくれたんですが、どういう風にやっていいのか僕にもわからないところがたくさんあったんです。
 でも、個人で手を挙げてくれるというのは、色々なリスクがありつつのところを名乗り出てくれたわけで。その気持ちに対して全力でこちらも応えたいと思って……是非やりたいと思いましたし、どうすれば現実にできるのか、一緒に考えたいなと思ったんですよね。実現にこぎつけました。

※岸さんは2005年4月に「池田聡のアコースティックウェイブ」に出演。その時に中西さんの想いを知り、3年後の2008年、思い切って中西さんに直接連絡を取ることに。最初はメールでしたが翌日、中西さんから岸さんに一本の電話が入りました。

 ―中西さんのようなトップアーティストがイチから作り上げていくイベントに出演するというのは、ある意味一番難しいところなのではないかとも思うのですが……。

 これは……美唄に惹かれちゃったからしょうがないんですよ(笑)。
 実は北海道でいい時間を共有できる場所がないかなあと探していた時期でもあったので。その時に出会った美唄という地名、そしてアルテピアッツァ美唄という場所。一回足を踏み入れて「ここだ!」と思いましたね。

 ―アルテピアッツァ美唄は野外彫刻公園で、もともとコンサート用に作られた場所ではありませんが、その場所で歌ってみたいと思ったのはなぜですか?

 まず、その佇まいの中にいる自分の心地良さというのがありました。そして、体育館でコンサートをする方もいらっしゃると聞いて、これはここでやるしかないなとすぐ思いましたね。それと岸くんの想い。僕にできることがあればやりたい、と思いました。

●家族の記憶を残していく「真無」の風景をフィルムに焼き付けていこうというコンサート……それが「美しい唄」Specialです。

 ―2009年7月に「美しい唄」コンサートが開催されました。実際にコンサートを行ってみていかがでしたか?

 リハーサルの時もふくめて“コンサート”という感じなんですよ。岸くんが手を挙げてくれて、色々な方が協力してくれて、ハードルを越えていく……その一個一個が音楽のようで。リハーサルの時から感極まっちゃって、幸せだなと思いましたね。これが本来のコンサート作りの形なんじゃないかなと。
 慣れや仕組みの中で仕事として作業をするのではなく、「何のためのコンサートなのか」「何のために集うのか」ということもふくめて「想い」が最初にあって。その「想い」を感じてもらいたいし感じたいし。僕のことを知らない方もたくさんいたと思うんです。でも行ってみよう、と思ってもらえたのは、「美しい唄」のコンセプトを一緒に共有したいという「想い」が芽生えたということだと思うんです。

 ―今年は7月11日・日曜日に開催が決定しました。今回は屋内から屋外の特設ステージに場所を移して行われますね。

 (イベントを)継続するのは一番大変だと思います。今回は大きなテーマがあって、「真無(まむ)」という新しい彫刻が音の広場に設置されるので、そのお披露目の意味もあるコンサートなんです。アルテピアッツァの想い、僕らの「美しい唄」への想い……それらをリンクさせて、家族の記憶を残していく「真無」の風景を心のフィルムに焼き付けていこうというコンサートなんですよね。
 記念のプログラムなので前回より規模も大きくなっています。野外ということもありますし。できる限りの用意をして臨まないといけないコンサートだという覚悟を持ってやっています。
 もちろん「想い」は前回と一緒です。はじめてアルテピアッツァ美唄に踏み入れた時の柔らかい空気と、身体に染みこんでくるような感覚……その中で音楽が風のように吹き抜けていけば良いなと思いますね。お客さんも、家族と楽しみたくて来てくれると思うので、「家族が今日という一日を楽しむためのプログラム」という意識は強いですね。
 しょうこお姉さん(はいだしょうこさん/2003年に宝塚歌劇団を退団後NHK「おかあさんといっしょ」の第19代うたのおねえさんに就任)の歌を聞いて子どもが喜んだ、その笑顔を見て親が喜んだ、その親の笑顔を見て子どもはもっと喜んだ、そんな孫を見ておじいちゃん・おばあちゃんも喜んだ、というような風景を目指しています。

 ―前回のコンサートでも披露された、中西さんが作詞・作曲された「美しい唄」という曲ですが、歌詞に出てくる「命」という言葉が凄く印象的で……。今伺った家族の風景ともリンクしてくるように思います。

 クリエイティブ的なことをいうと「美しい唄」というタイトルは色々物議を醸すかなと思ったのですが(笑)、「命」というか「生活」や「生きた記憶」というもの自体が「美しい唄」なのだから、思い出すだけでじわっとくる・泣けてくるということが素晴らしい……みんなそれぞれたくさんの「美しい唄」を持っていると思うんです。だからもっと「美しい唄」をストックしていくことが大切だと。
 コンサートのサブタイトルにもなっているYESTERDAY,TODAY AND TOMORROW・……ここ、アルテピアッツァ美唄で、過去・現在・未来の家族の記憶を残していこう、ということなんです。
 「幸せとは何か?」を問いかけた時に、それは家族であり命……そういうことを感じられる時間だったらいいなと思います。

●本当に優しい空気と時間が流れている場所なので、僕らも優しい風になって心地良い時間を作りたいと思っています。

 ―中西さんの楽曲は歌詞が“たって”聴こえてくるように思うんです。

 それは売野さん(売野雅勇さん/中西さんのヒット曲の多くを手掛けた作詞家)と一緒にやってきたのが大きいですね。売野さんは詞の世界に“道”を求めている方で、名刀の切れ味を持っている方なんです。だから「誇り」とか「証」とかそういう曲が多いので、自分自身に刃を突きつけられているような気がするんです。
 「僕自身そんなに聖人君主に生きてないです」と泣きを入れてしまったくらいですから(苦笑)。そこまで高みから歌える人間じゃないと思ったんですよね。
 でも、そういう曲に出会って言葉の力を感じたのは「Woman」という曲でした。もともとは「サイレント・メモリー」というタイトルでリリースされる予定だった曲なのですが、タイアップが決まり、急遽歌詞を全部書き直すことになって、売野さんは受けて立って、人の背中を押す力を詞に込めてくれて……どっちかといえばサウンド重視だった僕が詞の洗礼を受けたんですよね。
 それで詞に対するハードルが上がってしまって、更に詞を書くのが怖くなってしまったのはありました。でも、結局辿り着くのは“うた”なんだなと思います。“うた”というのは詞と曲が相俟って、心に残るんだなと。何を伝えたいのか、気持ちがはっきりしている“うた”を作りたいと思いますね。
 その中でできた「ぼよよん行進曲」は子ども向けの歌ではあるんですが、これがポップス、“うた”だなと思ったんですよ。こういうものを作りたかったんだという、求めているものに手が掛かった気がしましたね。

 ―その“うた”を形にするのは歌声……中西さんの歌声は全然衰えを知らないですよね。

 基本的にはおじさんだなあと思う方向にどんどん進んでいってはいるんですが(苦笑)、新しいチャレンジはしているんですよ。それはクラシックの発声方法なんですが、先生について学んでいるんです。ポップスを歌ってきたのでトーンについては自分なりに物凄く研究してきたんですが、いわゆる声楽……息の送り方や身体の鳴らし方については研究し尽くされていて「これがいい」というものが確立されているので、僕にとっては新しい発見が多いんですよ。その発見のおかげで、変わらない歌声として聴いてもらえるのかなと思いますね。

 ―それでは最後に北海道の方にメッセージをお願いします。

 美唄は炭鉱というスペシャルな記憶を持っている街だと思いますし、アルテピアッツァ美唄は子どもたちの笑顔の記憶を持っている場所です。そこを安田侃さんの想いが包み込んで現在があると思います。本当に優しい空気と時間が流れている場所なので、僕らも優しい風になって心地良い時間を作りたいと思っています。家族の記憶を心のフィルムに焼付けに、是非とも家族で足を運んでいただきたいと思います。

*インタビュー後記

 中西圭三さんほどのキャリアの持ち主が新たなイベントに着手するというのは大きな挑戦です。その挑戦は、「美しい唄」の聖地・美唄に住む人の挑戦が気持ちを動かしたということ。繋がりかけていた縁が、「想い」によって完全に繋がった時、「~YESTERDAY,TODAY AND TOMORROW~」という時間軸をも繋げてしまったのだと思います。
 「美しい唄」というコンセプトは、私たち一人ひとりが必ず持っているものです。そのコンセプトに気づくことは、今この社会が失いかけている“家族の絆”を再確認できるということ。
 2010年7月11日、中西圭三さんの想いを受け取り、一人でも多くの方が「美しい唄」のコンセプトに触れてくれることを切に願います。

「美しい唄」Special ~YESTERDAY,TODAY AND TOMORROW~

<日 時> 2010年7月11日(日) 12時開場 13時開演(18時終演予定)

<出 演> 中西圭三、はいだしょうこ、ドレッドノート、桜庭和、Toshi、ほか

<場 所> アルテピアッツァ美唄 音の広場「真無」野外特別ステージ(雨天決行)

<チケット> 当日 3,500円 前売り 3,000円 美唄販売分前売り 2,500円
   4歳以上中学生以下 1,000円 3歳以下は入場無料

<問い合せ> NPO法人アルテピアッツァびばい事務局
   0126-62-0808(水~土12:00~17:00)

<特設サイト> http://www.artepiazza.jp/special2010/

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